第4回定例会一般質問   2011.11.21 小松 久子

こころの健康について

私は、生活者ネット・みどりの未来の一員として、「こころの健康について」質問いたします。こころの健康、すなわち精神疾患の問題についてです。ここでの精神疾患とは、統合失調症を中心に、そううつ病をふくむ気分障がい、神経性障害、アルツハイマー病などのほか、発達障がい、うつ病もふくめて考えることとします。正確には「脳の健康」「脳の病気」というべきなのかもしれませんが、ここでは「こころの健康」「こころの病気」という言葉で論じてまいりたいと思います。

 

国の社会保障審議会医療部会において、今年7月、これまで医療計画に記載する疾病として位置づけてきた「4疾病」に、新たに精神疾患を加えて「5疾病」とすることが合意され、その後の手続きが進められています。先週の1116日に開かれた厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」では、次期医療計画に盛り込む指針が議論され、精神疾患の医療計画について「住み慣れた身近な地域で、福祉や介護、就労支援など、さまざまなサービスとも協働しながら、必要な医療が受けられる体制」という方向性や、うつ病と認知症に重点を置く方針が示されました。

 

精神疾患が5疾病のひとつに加わると、2014年度に策定される東京都の次期医療計画に位置づけられることになります。医療に関する事業は区の範疇ではないので、精神疾患についての取り組みとしては、区では保健福祉事業において「心の健康づくり」としてうつ病対策、精神疾患の知識の普及啓発、心の健康相談、地域支援ネットワークなどに取り組んでおられます。

 

ただ、昨年春に出された「杉並区における地域医療体制に関する調査検討委員会報告書」の中では、現在までの4疾病すなわち「悪性新生物、心疾患、脳血管疾患、糖尿病」と高血圧症について検討されていますが、精神医療については触れられていません。

 

区内の対象者数は、精神障害者保健福祉手帳の所持者だけを見ても、今年331日現在、1級が180人、21,134人、3809人、合計2,123人とのことです。実際の数はこれより多いことは確実ですから、精神疾患の「施設から地域へ」という流れのなかで地域医療における取り組みは重要であるはずです。

 

地域医療として精神疾患への取り組みを位置づける、また保健福祉計画への反映など、区としての取り組みも求められるのではないでしょうか。最初の質問として、見解をうかがいます。

 

こころの病気について考えるとき、いま日本で深刻な社会問題となっている自殺の増加と「うつ病」との関連に目を向けなければなりません。

 

日本の自殺者の年間31千人は、糖尿病による死者14千人と比べて倍以上です。東京都のデータでみると、2010年の自殺者2,814人は交通事故死215人の実に13倍にもあたります。東京の10代、20代、30代の死因の第1位、40代の死因の第2位、50代、60代の4位が自死によるものです。そして、社会保障審議会医療部会の議論では「自殺の9割に、何らかの精神疾患に罹患していた可能性」との指摘がありました。

 

このような状況にあって、区が自殺予防対策に積極的に取り組んでおられることは認識しています。職員などを対象に開催されているゲートキーパー養成研修もそのひとつといえます。

 

東京都が発行する冊子「東京こころといのちのゲートキーパー手帳」によれば、「自殺対策におけるゲートキーパーとは、『地域や職場、教育、その他さまざまな分野において、身近な人の自殺のサインに気づき、その人の話を受け止め、必要に応じて専門相談機関へつなぐ、などの役割が期待される人』のこと」と定義されています。要は、死にたいと思っている人に思いとどまらせる人のことです。

 

役所の相談窓口担当者や民生委員、学校の教師など人と接する立場の人が、危険エリアの一歩手前での「いのちの門番」、すなわちゲートキーパーとして「気づき、受け止め、つなぐ」力量とスキルを習得できるよう、この研修は続けてほしい取り組みです。区が実施した研修の趣旨とプログラムはどのようなものだったのでしょうか。また成果はいかがだったのか、二つ目の質問としてうかがいます。

 

東京都の調査によれば、自殺した人のおよそ7割は直前に何らかの「サイン」を発していたものの、その家族の多くは「当時は自殺のサインと思わなかった」と答えています。「いのちの門番」がさまざまな場面で必要とされるゆえんです。

 

こころの病気を引き起こすきっかけや原因、またそれによって生じる問題は、多岐にわたります。虐待、いじめ、ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力などは被害者にも加害者にもなっている実態がありますし、不登校、ひきこもりや過労、就労困難、貧困、薬物やアルコール依存、多重債務、ごみ屋敷、ホームレスなどの背景に精神疾患が存在していることは珍しくありません。いずれも重い社会問題であり、しかも重層化することで解決困難に陥りやすい問題です。しかし早い段階で手当できれば、これらの問題は軽症ですむ可能性があるのです。

 

一昨年、都内のあるNPOが、統合失調症などの精神疾患をもつ障がい者の家族を対象に調査を行い、1,485人から回答を得ました。これによれば、本人の異変に気づいてから精神科治療に結びつくまでに3年以上かかった人が12%、1年から2年が24%となっています。つまり3分の1以上の人は治療につながるまで1年以上かかっていることになります。

 

半数近くが20歳までの間に最初の異変があり、24歳までに発症した人は75%に上るという調査結果からこの病気の特徴が見えますが、若い世代であればなおさら、早く適切な治療を受けることが重要です。病状が最初にあらわれたときの医師に認識がなければ見逃されてしまいがちなことが、精神科の治療につながるまでに1年以上かかった人が36%、という数字に表れています。精神科以外の一般診療科での診察時に精神疾患が見逃されることのないよう、精神科医と一般診療科医との連携が求められます。

 

それでは以下、7項目にわたって質問いたします。

 

1点目、精神疾患にかかわるアウトリーチに関連しておたずねします。

 

アウトリーチとは「手を差し伸べる」という意味で、保健福祉分野におけるアウトリーチは、地域への出張サービス、訪問支援などのことをいいます。新生児訪問や訪問育児サポート事業などの赤ちゃん対象から、在宅で介護を受ける高齢者対象まで、アウトリーチの手法は医療、保健、福祉のさまざまな場面で実践されており、さらに広がることが望ましい手法です。

 

とくに精神疾患に関しては、外出が難しい罹患者は少なくないので、専門家や支援者が当事者のもとへ出向いていくことが必要です。医師、保健師、福祉職など多職種によるアウトリーチが制度として機能することは、精神障がい者が「施設から地域へ」の流れにそって、地域で安定して生活を送り、また就労して社会で生活していけるようになるために欠かせない条件です。

 

東京都立中部総合精神保健福祉センターは、精神保健福祉法にもとづく施設として杉並区をふくめた都内10区を管轄しています。都立松沢病院の地続きにあるこのセンターに先日うかがい、杉並区が精神保健福祉のさまざまな事業に、ここと連携しながら前向きに取り組んでこられたことをお聞きしました。ここでは、医療、保健、福祉など多職種の専門家チームによるアウトリーチ支援事業を、昨年度のモデル実施をへて、今年4月より本格実施しています。

 

区は、医療を中断してしまったなど、地域生活を続けるうえで困難が生じているような事例に対し、このアウトリーチ支援事業を積極的に活用しておられます。しかし、今後はより身近な地域での、一人ひとりの症状に合わせて包括的な支援を行うアウトリーチの取り組みが求められます。

 

いま、ACT、アクトというアウトリーチのプログラムが、精神保健医療福祉分野で知られるようになっています。「アサーティブ・コミュニティ・トリートメント」の略で、日本語では「包括型地域生活支援プログラム」と訳されています。症状が重く地域生活が困難な当事者に対し、看護師、作業療法士、精神保健福祉士、就労支援の専門家、医師などがチームを組み、生活の場に出向いて24時間365日体制で支援のサービスを提供するプログラムです。日本では千葉県市川市で2003年に初めて開始され、いま全国の10地域で実施されていますが、今後この実践がさらに多くの地域へと広がるよう、期待しています。

 

この夢はもちつつ、区の施策を考えるとき、たとえば相談支援事業所がイニシアティブをとるなどして、アウトリーチのしくみを使った取り組みを展開してはいかがかと思います。お答えください。

 

さて、そもそもなぜアウトリーチかといえば、その前提は20049月、厚生労働省の精神保健福祉対策本部が発表した「精神保健医療福祉の改革ビジョン」において、「入院医療中心から地域生活中心へ」という基本方針が示されたことによります。精神保健福祉はこのときを起点として大きく転換し、「施設から地域へ」の方針を実現していくための基盤整備が進んでいます。

 

「社会的入院」を解消して地域に帰ろうという、精神科病院からの退院促進事業も、そのような方針にそって杉並区の障害福祉計画に数値目標を定め、進められています。区内に精神科病床のない杉並区ですが、都と連携して退院促進に取り組んでおられます。当区への地域移行の実績と、区の障害福祉計画と比較して達成状況はいかがか、併せてうかがいます。

 

来年4月からは自立支援法改正により、地域移行・地域定着支援事業に対する個別給付化が予定されています。これによりどのような活用ができ、何が期待できるのか、関連してうかがいます。

 

地域移行・地域定着ということは課題の解決を入院に頼らない、ということです。再入院を防ぎ地域で解決を図る、といっても病状が急変した場合の緊急対応のしくみがなければ、それは不可能です。精神障がい者の家族から、そのようなしくみが求められています。24時間かけられる電話や、緊急受診できる施設の確保など、救急体制について、地域のネットワークを使ったしくみづくりが必要と考えますがいかがでしょうか。うかがいます。

 

つづいて2点目はピアサポート、すなわち精神障がいのある当事者が行う相談などの支援活動についての質問です。杉並区地域生活支援センター「オブリガード」では、有償ボランティアとして精神障がいをもつ当事者が相談対応を担っています。カウンセラーの人材としても本人のリカバリーのうえでも効果的と考えます。意識的に人材を養成して活動をさらに推進すべきではないかと考えます。いかがか、お答えください。

 

3点目、家族に対する支援についてです。家族介護の問題については以前より、高齢者や認知症をはじめとして在宅で介護を担う家族への支援を訴えておりますが、精神疾患についても同様です。この病気は思春期を中心としてその前後に発症することが多いため、親や家族には心身ともに受け入れることが難しい場面が多く発生します。家族として病気について学び、互いに理解し合い孤立することを避ける、という意味で、家族同士の交流や情報交換は重要です。

 

当区では精神障がい者の家族会が活発に活動し、先ほど述べたピアカウンセリングとはまた違った、家族による家族のための相談活動などもされていますが、他の障がい者団体同様、高齢化などさまざまな問題を抱えておられます。区はこのような活動が継続していけるよう支援すべきと思いますがいかがか、うかがいます。

 

4点目は就労についてです。昨年度、障害福祉計画の基礎調査として、障がい者の地域生活に関する調査を実施されています。それによれば、精神障がい者の就労状況は、作業所、授産施設での仕事が過半数を占め、勤めるにしてもパート・アルバイトが23%であり、常勤は11%に過ぎません。また就労生活を継続させるために必要なこととして「仕事の定着支援や職場調整などの就労支援機関による支援」と「いつでも相談できる人や場所」が多く挙げられています。

 

このような状況に対する区の見解はいかがでしょうか。区としては精神障がい者の就労に向けてどのような取り組みがされているのか、おうかがいします。

 

こころの病気をもつ人の就労や地域での生活をしにくくさせている原因として、いまだに根強い差別と偏見の存在を否定できません。

 

そこで5点目は、学校におけるこころの健康教育についてです。偏見をなくしていくには、可能な限り若いうちからこころの病気について知り、理解することが重要です。近年、精神科医療の現場でうつ病の低年齢化が指摘されているように、小学生で精神疾患を発症するケースも珍しいことではありません。

 

先にご紹介した都内のNPOの調査を再び引用しますと、「家族が病気になる前に精神疾患について学ぶ機会がありましたか」という問いに対し「なかった」との回答は87%、また「家族や本人が学校教育のなかで精神疾患について学ぶ機会があったら、病気になったときの初期の対応が違っていたと思いますか」という問いに対して「はい」と答えた人も87%、いずれも圧倒的多数でした。これを貴重な問題提起と受けとめるべきと思います。

 

中学生向け学年ごとに理解ができるよう工夫されたプログラムもあります。ぜひ学校教育のなかで積極的に取り組んでいただきたいと考えます。見解をうかがいます。

 

6点目は保健所の機能強化についてです。地域の精神保健福祉をすすめるには、精神医療の質の充実もですが、地域へ出ていく保健師の人的充実が欠かせないと、今回つくづく思いました。人の配置を含めて、保健所行政の機能強化が必要と考えますがいかがでしょうか。お答えください。

 

そして最後、7点目は地域における啓発についてです。こころの病気についての誤解をなくして正しく知り、病気にかかった人を排除せず広く受け入れる風土をつくること、そのためには理解を深める啓発事業を積極的にすすめるべきです。いかがか、見解をお示しください。

 

ちょうど1年前の、区議会第4回定例会の一般質問で私は「成年後見制度」について質問した際、精神障がい者には必ず「保護者」をつけて一生監視され続けなければならない、という「保護者制度」の根底にある差別と偏見について指摘しました。内閣府障がい者制度改革推進会議で、この精神障がい者の保護者制度については抜本的に見直す方針が出されているので、廃止は時間の問題だとは思います。

 

また、この病気にかかわる人たちからは「昔より状況はよくなった」「いまは薬がよくなったから」という話を聞きます。いまはずっといい、世の中も変わってきた、医療も進歩した、という言葉はしかし、昔がひどすぎたのだということではないのでしょうか。「社会的入院」という聞こえのいい言葉こそ使われても、その本質は封建時代と変わらない状況がついこの前まで続いていたのが、こころの病気を取り巻く現実です。「地域へ」と言いながらその「地域」に病気を受け入れる土壌がないなら、本人にとっても家族にとっても残酷すぎます。

 

しかしいま、国を動かしてこころの健康推進をはかろうという運動が全国で立ち上がっています。重要疾病への位置づけが進む動きと併せて、その運動が、国民病とまで呼ばれるようになった「こころの病気」を克服する大きな前進となるよう願いつつ、私の質問を終わります。