第1回定例会 一般質問  2013.2.18 そね文子

いじめを防止する学校の環境作りについて

 私は、生活者ネット・みどりの未来の一員として「いじめを防止する学校の環境づくりについて」質問いたします。

 一昨年10月の、大津市でいじめを受けていた中学生の自殺を契機に、こどものいじめが大きくクローズアップされる中、大阪市の公立高校バスケット部顧問からの体罰を苦に高校生が自殺しました。そして体育会系部活での体罰という名の暴力の常態化など、子どもたちが置かれた逃げ場の無い状況が次々に明らかになっています。昨年私どもの会派から小松議員がいじめについて質問したところですが、国が対策を打ち出そうとしていることを受け、また他の視点から、改めて質問いたします。

 今国会では新政権の下で「いじめ防止対策基本法」制定に向けて骨子案が示されました。骨子案は、安倍首相が本部長を務める教育再生実行会議からの提案が反映されているとのことですが、そのメンバーの顔ぶれや報道される議論の内容を聞く限り、期待よりも子どもをより追いつめる結果を招くのでは、と懸念しています。

質問の第1番目として、区はこのような国の動きとその背景をどうとらえているか伺います。

 骨子案の内容は、重大事案については学校から市町村長らへの報告を義務化し、調査組織の設置も求められています。また「いじめで生命の安全が脅かされる際に学校は直ちに警察に通報する」と明記され、いじめた児童、生徒を学校教育法に基づいて出席停止にする措置の活用も規定するものです。

犯罪に対してはもちろん厳正な対処が必要ですが、学校がすぐに警察を呼ぶようになることを危惧しています。子どもに対する管理を強化しようとする方向性は学校におけるストレスをかえって大きくしてしまうことになり、いじめを防ぐことにはならないと思います。2番目として、このことについての区の考えを伺います。

杉並区ではいじめの早期発見・早期対応のために「仮称ダイヤルいじめ相談」が開設される予定とうかがっていますが、新たな取り組みに期待をしています。昨年12月19日、済美教育センターの「夜間塾」がいじめをテーマにパネルディスカッションを開催しました。時宜を得た企画だったと思います。パネリストは小中学校の校長先生、区の子ども相談電話サービスゆうラインの担当者、PTA連合会長、教育SATなど区の関係者に、民間で子どもの電話を受けているチャイルドラインの担当者が加わっていました。チャイルドラインからの報告ではいじめられている子のリアルな声が報告されました。

 いじめられている子は自尊感情が低く、自分が悪いからいじめられると思ってしまい、いじめている子から離れられない。発達障がいのある子どもが他者と違うことでいじめの対象になり、やがて自己肯定感が下がり、不登校からひきこもりになったり、精神障がいを発症するなどの深刻な二次被害が起こっているとの報告もありました。パネリストに子どもの生の声を受けているチャイルドラインの担当者が入っていたのは画期的で、そこからの要望を真摯に受け止める区の姿勢が印象的でした

この「夜間塾」について、開催の趣旨、広報の仕方、呼びかけの対象者、参加人数とその方たちの所属、パネリストの選定理由について伺います。

 いじめが起こったとき、教育SATや校長先生からの区としてどんな対応をとっているかという話は多くの保護者や地域の人たちも聞きたいことだと思いました。また放課後の子どもの居場所となっている学童クラブの担当者の話も聞きたかったと思います。

今後いじめ防止に向けて、多くの区民、子どもに関わる関係者が広い会場で集い、さまざまな角度から考える機会を設定していただきたいと考えますがいかがか、伺います。

 次にいじめてしまう子どもの背景について考えてみたいと思います。いじめについて、教育法学者である早稲田大学の喜多明人教授は、抗しがたい人間関係の中でストレスが弱いものへと向く行為と定義しています。

だとすれば、いじめの原因はいじめる側のストレスということになります。いじめがどんなに卑怯な行為であっても、いじめる子もまた援助を必要としている子どもです。そして現代のストレスの強い社会状況や置かれた環境がつくった被害者とも言えると思います。しかりつけたり、指導したりするだけではいじめの本質的な解決にはなりません。

このような観点から、いじめられている子どもへのケアと同じくらい、いじめる子へのケアは重要だと考えますが区の考えをうかがいます。

 いじめの加害者となった子どもに対してもチームでケアにとりくむべきと考えますがどのように行っているのでしょうか。例えばいじめの加害者となった子どもにスクールカウンセラーとの面談を設定したり、SSWが関わってケアを行っているのか伺います。

教師をしている友人から、いじめる子のケアも必要だと思うが、忙しすぎてその時間がない、もっと子どもと向き合う時間がほしいという声を聞いています。一方、学級の荒れが原因でいじめが継続する場合、担任の負担を減らすためには複数の教師が必要だと思います。区はティームティーチングを採り入れておられますが、複数の教師による授業の支援や区により人的配置が必要と考えます。現状はどうなっているでしょうか、伺います。

 また学級の荒れが原因でいじめが継続する場合で、保護者からの要請がある場合、学校、保護者、関係機関が解決に向けて話し合う場の設定が必要と考えますがいかがか伺います。

 当区では今年度、すべての小中学校の図書館に司書が配置されました。いつでも図書館が開いていて専任の司書がいるということは、「評価しない、点数をつけない大人」がいることです。図書館が子どもにとって安心していられる、本音が出せる居場所、という側面をもつようになったといえます。

そこで学校司書にもいじめに対応するチームの一員として協力を求めてはいかがでしょうか。学校司書も研修を受け、子どもに寄り添った支援をすることは大変有効と考えますが、区の考えはいかがか伺います。

 次に先日学習会に参加し、その後世田谷区立の中学校で行われているワークショップを見学した「いじめ防止プログラム」を紹介したいと思います。これは2006年に神奈川県藤沢市のある中学校で行われたアンケートでいじめを目撃した生徒のうち9割が傍観していたとの回答を見た学校が危機感を持ち、地域のNPOと一緒に開発したものです。生徒自身がチームを組んで子どもの相談を受けたり、啓発活動を行うことでいじめを未然に防止していく活動です。このいじめ防止チームのメンバーはスクールバディと呼ばれます。

プログラムは、まずいじめについて共通認識を持つために、生徒、教師、保護者、地域の大人向けに講演会が開かれた後、子どもたちはクラスごとに全4回の講座を受けます。人権尊重の視点に立ち、自尊感情を高めることを学び、暴力によらないコミュニケーション方法を身につけ、いじめを防止するためにどのような行動を一人ひとりがとるか考える内容になっています。この後、スクール・バディになりたい希望者を募ります。希望者は、心理学的な聴き方の訓練、いじめ防止啓発のためのプレゼンテーションの技術などさらに8時間のトレーニングを受けます。相談された内容について秘密を守ること、自分を守ること、ケースによっては先生に相談することを学びます。修了後は学校内にいじめ防止活動の拠点となる部屋「バディルーム」を設置し、相談や話に来る生徒の話を聞いたり、いじめ防止のための計画を練り啓発活動を行っていきます。具体的にはビデオ制作、演劇、校内放送のDJ、新聞やポスター作りなどの啓発活動が行われているそうです。都内では世田谷区の中学校で6年取り組んでいるところがあり、品川区でも来年度から中学校2校、小学校3校で導入されるそうです。藤沢市ではすでに中学校10校と小学校2校で実施され、いじめの認知件数が急増しているこの時期に件数が微減しているということです。

このようなプログラムを杉並区でも導入できないでしょうか。うかがいます。

 私は小学校6年生の時にクラスメイトがいじめを苦にして自殺で亡くなりました。彼女は大変真面目でおとなしく勉強のできる生徒でした。自殺の原因はいじめだと子どもたちはわかりましたが、新聞ではまったく違う理由で報道され、学校では自殺原因の調査などはいっさい行われませんでした。

いじめた子には他の多くの子が順番でいじめられていました。今振り返ると、子どもだった私たちは、みんなが傍観者でした。いじめっ子に誰かがいじめられている風景は当たり前のこととなっていたのです。もし先ほど紹介したプログラムを受けて、いじめに対して皆で話し合う機会が与えられ、子どもたちが傍観者でなくなっていたら、この不幸な出来事はおこらなかったと思いました。

 紹介したプログラムは1例です。子どもたちが自尊感情を高め、自発的にいじめ防止に取り組めるようなプログラムをすべての学校で取り入れていただきたいと考えますが、区の考えをうかがいます。

 さて、先ほど夜間塾で、発達障害がいじめの対象になっているとの報告があったと述べましたが、そのことについても取り上げたいと思います。

発達障がいを持つ子どもは、自分を取り巻く人たちとのコミュニケーションが苦手で、たとえば皮肉が理解できず、いわゆる空気を読むということができない、というような特徴があります。そのため学校において、子どもにとっては楽しいはずの休憩時間、給食の時間、登下校の時間などもリラックスできず、コミュニケーションをとることに疲れ果てている状況も見られます。彼らと直接かかわることの多い専門家は、小学校から高校までを通じて発達障がいの子どもは、他の子どもたちに比べていじめの標的となるリスクが極めて高いと述べています。

またいじめが原因で不登校やひきこもりになったり、二次障がいとして精神障がいに移行するケースも報告されています。

杉並区としては発達障がいを持つ子どもといじめの関係をどう認識しているか、うかがいます。

 2011年度に済美教育センターの教育相談に寄せられた合計相談件数878件のうち、発達障がいの相談が489件、55.7%と半数以上をしめています。また小学校でスクールカウンセラーが受けた相談件数は24,228件で発達障がいに関することが2,936件。この内教員からの相談件数が1,339件と半数近くを占めています。教師が苦労している実態が数字に現れています。

発達障がいの知識と対処能力が求められると考えますが、研修などどのように対処しているのでしょうか。

 文科省は、通常学級に通う公立小中学生6.5%に発達障害の可能性があることを公表しました。このうち4割が個別指導などの支援を受けておらず、学校内での支援が必要と判断された児童生徒18.4%でも6%が無支援だったとしています。学校に対応しきれていない状況あるということだと思います。また保護者が障害への抵抗感などから相談に行かず、支援につながっていないケースも少なくないと言われています。

区では来年度、発達障がい児の相談と療育を充実させていく取り組みを予定しているとのことですが、その中で学校との連携はどのように行うのか伺います。

 クラスで問題を起こす子どもを他の子どもの保護者が排除するような考え方が子どもに悪影響を与える事例があります。もし問題を起こす子どもが発達障がいだった場合、その子の生きづらさを大きくするのは、それ以外の人たちが作った、異質なものを受け入れない環境が原因だと療育の専門家が指摘しています。当事者の保護者や関心のある人だけが理解していても状況は改善されません。

自分の子どもが発達障がいでない保護者も、当事者の保護者もともに発達障がいについて学ぶ機会が必要だと考えます。それには学校が保護者会などを利用して学ぶ時間を設けることが有効だと思いますが、お考えを伺います。

 これまで述べてきた学校の環境づくりは、子どもの権利をそこに居る大人も子どもも学ぶことによって良くしていくもの考えます。いじめは、暴行・傷害などによる生命権、身体権、自由権の侵害、持ち物の毀損などによる財産権の侵害、精神的な攻撃による名誉毀損など、基本的人権を脅かす行為です。それに気づくことで、自分が悪いのではなく権利侵害する加害者が悪いと認識し、助けを求められることが解決につながります。先の代表質問において教育長は、いじめに対しては人権尊重の精神を貫いた教育活動を展開し、子どもたちがいじめを自分たち自身の問題としてとらえ解決に向けて主体的に取り組む態度をはぐくみいじめを克服していくと答えておられ、大変共感いたしました。

 世田谷区では子どもの権利を擁護する「子どもオンブズパーソン」の仕組みができました。先ほど学級の荒れが原因でいじめが継続する場合、学校、保護者、関係機関が解決に向けて話し合う場の設定が必要ではないかと申し上げましたが、もし杉並区にもこの制度があり、子どもの立場にたった公的な第三者機関が関わってくれたら硬直した状況を打開するのにたいへん有効だと思います。これまでも生活者ネットワークは子どもオンブズの設置を提案して参りましたが、それを再度、最後に求めて私の質問をおわります。