決算特別委員会 意見開陳  2012.10.4 そね文子

 

決算特別委員会に付託された2011年度杉並区一般会計歳入歳出および各特別会計歳入歳出決算について意見を申し述べます。


 


当該年度は、311日、予算可決直後におきた大震災によって、区政は大きな影響を受けました。策定の最中だった基本構想は、審議会の議論の内容も変化し、結果として防災・災害対策が最大のテーマに急浮上した感があります。もし大震災がなければ、基本構想は良くも悪くも、ちがうものになっただろうと思います。震災直後に統一地方選挙が行われ、新たな区議会がスタートした年でもありました。


 


原発事故を受け、脱原発を求めるデモがさかんに開催されるようになったことは、市民が政治に対して自らの意思を示すようになった表れと前向きにとらえたいと思います。その動きは、今年、野田政権が民意を無視して敢行した大飯原発再稼働を受け、現在まで継続している毎週金曜日の首相官邸前デモへとつながっています。




この間の我が国の経済状況を見てみますと、2008年のリーマンショックからようやく回復に向かう兆しが見られた時期に大震災がおきたことで、個人消費が落ち込み、極端な円高による企業収支の圧迫や、さらなる雇用状況の悪化が進み、超少子高齢社会が進行する現在、景気の先行きは減速し続けるのが明らかな状況にあります。


 


それは杉並区においても、当該年度の特別区民税が5年連続で減り続け、収入未済額は所管の努力で前年度より改善したものの100億円を超えるという状況からも見て取れます。生活扶助費のさらなる増大にもそれが表れています。


 


経常収支比率が前年比で1.3ポイント下がり、単年度収支でみれば健全と言えても、持続可能な財政運営を継続する観点からみると、これからも不断の努力が強く求められます。


 


当該年度の区政全般において印象に残っていますのは、震災と原発事故直後の対応として、区民の放射能汚染に対する不安を受け、0歳児がいる家庭への飲料水の配布、空間・土壌や給食食材の放射線計測、除染など迅速に動かれたことです。また南相馬市への多面的な支援、自治体スクラム支援会議の設置と、意欲的に取り組んでこられたことに敬意を表したいと思います。


 


さて2011年度決算について、委員会の質疑で区長が繰り返し述べておられたような、財政のバランスに対する配慮を確認しました。限られた時間ではありましたが、いただいた資料をもとに施策の執行状況について調査を行った結果、小松久子、市橋綾子、すぐろ奈緒、そね文子は一般会計並びにすべての会計決算案にたいして認定すべきものと判断しました。なお奥山たえこは不認定とし、後ほど意見を述べます。


 


以下、決算審査の締めくくりに当たり、時間の制約により述べられなかったことや、再確認をお願いしたいことなど、何点か絞って述べさせていただきます。


 


まず防災についてです。


東日本大震災は、東京に暮らす私たちにとって、近々起きるであろう首都直下地震の発生を現実のものとして認識させるに十分でした。大震災後、防災をわが身のこととして捉え、実効的な備えをしようとする人が増えています。そのようなときに行政がすべきことは、住民の「お任せにしておけない。自ら備えよう」という緊迫した思いを捉えて、それを後押しすることではないでしょうか。住民が避難訓練をする場合、NPO法人や町会・自治会、防災会などの団体でないと区の施設、学校施設使用の敷居が高いのが現実です。そのうえ、使う施設によってそれは公園課、それは教育委員会、と窓口が分かれます。あれこれ規制するばかりでなく区民の立場に立って一緒に考えていただくことができないでしょうか。どうしたらできるかを一緒に考える窓口の設置を望みます。


 


加えて震災時に不足するトイレの問題を提起しました。都立和田掘公園にあるマンホールトイレの穴90個は東京都が掘り、ウワモノを区が用意しています。90のうち腰掛式つまり洋式は9個だけ。圧倒的に洋式が足りません。和式・洋式の数のバランスはこれで良いのか再考が必要です。


 


そのうえで、トイレは避難した人だけが使うという想定はすでに間違っています。断水になれば住民は仮設トイレやマンホールトイレを求めて震災救援所、広域避難場所、いっとき避難地、公園などに殺到します。それを想定すればトイレの数は必ず不足します。ご検討ください。


 


食物アレルギー対応食の備蓄を提案しました。もっとも多いと思われる乳製品、卵、小麦アレルギーの方達は既に用意されている白米が食べられますので、お願いしたいのは特に粉ミルクへの対応です。基本は各家庭で備蓄するものであることは承知していますが、火災によって焼失する場合も考えられます。アレルギー対応食はアレルギーがない人も口にすることができます。備蓄品の一部をアレルギー対応とすればすみます。ご検討を望みます。


 



放射能対策については、区民の強い要請を受け、ゲルマニウム半導体検出器を購入し給食食材の計測をしてこられたことを評価しています。今後も計測する食材の見直しを検討しつつ続けてくださるよう要望します。ただ一方で、区がこれまで顧問として、またシンポジウムのパネリストとして招いた専門家の方がたは、区民の気持ちに寄り添うというよりは、放射能の安全性を押し付けるような言動が目立ちます。今後は不安を抱えた区民が納得できるような専門家を、区民の意見も聞いて選定してくださるよう要望します。

 


行政評価と市民参加のあり方について述べます。


区は99年に行政評価制度を導入して以来、たえず見直し新しい試みを採り入れるなどされている一方で、区民による行政評価を受けることについては、区民アンケートなど「ご意見承ります」の広聴活動にとどまっています。いまひとつ積極性が見られないことに歯がゆい思いです。当該年度に初めて実施された、無作為抽出の区民による意見交換会にしても、幅広い年代層の区民が単に意見を出し合う場に終わってしまっています。それが意味のないことだとは決して思いませんが、せっかく集まっていただき、報酬を支払うのであれば、区民から密度の高い議論を引き出すような形に、さらに工夫し研究していただきたいと思います。そしてその評価を実際の区政にどのように生かしていくかについて、区の課題として、ぜひ取り組んでくださるよう要望します。


 


これからの協働のあり方について、有識者会議より新たな考え方が示されました。


大震災の教訓や、高齢者をはじめとして地域で孤立する人びとの問題が、「地域の絆」という言葉で表されるコミュニティーづくりの重要さを行政課題として突き付けています。このようなニーズがあるなか、これまでの「区とNPO」の間の関係というだけでなく、町会・自治会など地域の活動団体もふくめた協働をすすめようとすることは、時代の要請でもあり自然な流れだと思います。地域の現場で小さな実績を積み重ねながら、着実に進めていただきたい。区はそのための推進体制をしっかりと構築していただきたいと思います。


 


男女共同参画について申し上げます。


質疑の中で、男女平等推進センターの機能アップ、発信力の強化を求めたところ、現在策定中の「男女共同参画社会をめざす行動計画」のなかにしっかり書き込んでいくとの答弁をいただきました。しかし、そもそも行動計画とはどういった基本理念に基づくものなのでしょうか。当区には、計画の方向性
や具体性を鮮明にするような法的根拠となる「男女共同参画推進条例」がありません。前々回、2007年度の行動計画では「他の自治体の条例を調査・研究する」としていましたが、2009年度ではこれが消えています。行動計画をしっかり進めていく上でも、「杉並区男女共同参画宣言都市宣言」15周年にあたる今年、ぜひ、根本からの議論をして条例の制定に向けての取り組みを進めていただきたいと思います。


 


保育について申し上げます。一人親家庭の認可保育園への入園率が低い状況を指摘しました。年収1500万円をこえる高所得の家庭は660人が入園できている一方で、平均収入が181万円の一人親家庭が年間50人も断られ、認可外保育園に子どもを通わせています。保育園の入園については、保育に欠ける児童の中でも優先度が高い世帯に対し、公平な受け入れ体制ができているのか、大いに疑問があります。入園選考基準において、収入を考慮するなど指数加算項目の見直しを強く要望しいたします。


 


学童クラブへの通所ボランティアの活動現状について伺ったところ、現在、登録している29名全員がフル稼働されている状況です。万一、対象となるお子さんが増えた場合、担い手がすぐ見つかるとは限りません。地域の支え手を増やすには、単にボランティア登録を募るのでは少々配慮不足ではないでしょうか。障がいについての学習会、講演会など、学んで理解する場をつくり、そこを通して登録する人を増やすなどの工夫が必要だと考えます。どの子どもも、どの子育て家庭も地域で支える、地域で子どもを育てる、そういう杉並区をめざしていただきたいと考えます。


 


殺虫剤の使用についてうかがいました。


殺虫剤の成分は農薬と同じで、虫の神経を壊す働きがあります。それは人の脳へも影響があるという調査結果も示されています。保育園や学校での殺虫剤の使用については慎重に、万一使う場合は極力量を控えていただくよう要望します。また給食室で使用する洗剤には石けんを、手洗い用のせっけんについては多くの学校が使用している無添加石けんの使用を広げるよう求めます。厨房で働く人や子どもの健康を守るため、また水循環に影響を与えないために、合成洗剤の使用をできる限り減らす努力をしてくださるよう要望します。


 


環境問題に関連して、省エネについてです。区がこれまで様々な努力をしてこられたことは評価しています。しかし、今後原発に頼らないエネルギー社会をつくるために、さらなる省エネ対策が欠かせません。特に大型施設については、無理なく、工夫次第で大幅に省エネできる余地が残されています。提案させていただいた無料の省エネ診断を受けるとの答弁がありましたので、その結果を踏まえて、引き続き積極的に対策を進めるよう要望します。


耐用年数を過ぎている照明器具の入れ替えについても、省エネ効果と区財政に与える影響は大きいため、費用対効果を十分に検討し、計画を策定することを要望いたします。


 


中学生環境サミットを全中学校の参加で、「持続可能な発展のための教育=ESD」の一環として行ってほしいと思います。新学習指導要領にも明記された、持続可能な社会の実現をめざす教育活動として、中学生環境サミットを教育委員会が、杉並区版エコスクールの環境教育、環境配慮行動に位置づけ、ぜひすべての学校に広げていただくよう要望いたします。


 


 


学校における災害事故の質疑を通して区の危機管理を問いました。


質疑の中では触れませんでしたが、中学校で武道が必修科目とされたのは、そもそも2006年の教育基本法改定に端を発しています。当時の政権のもと、「伝統と文化の尊重」がことさら強調された内容に書き換えられた結果、教育的見地からの議論はもとより国民的な盛り上がりも皆無であったのにもかかわらず、学習指導要領に武道の必修化が盛り込まれたことは、教育政策のあり方として大いに問題があると考えます。


 


そうは言っても、教育現場に責任を負う行政が最優先すべきは、子どもが安全に学ぶ環境整備です。質疑では、おもに柔道に言及しましたが、柔道に限らず、事故をおこさないためのルール作りとその徹底、また万一の場合に備えた対応策について、常に点検し折に触れて見直してくださるよう求めます。学校におけるスポーツなどの災害事故が、係争事件に発展している事例が全国で、決して少なくないことを忘れてはなりません。そして、問題が起きてしまった場合の、訴訟によらない、人的な解決をめざす第三者機関の設置を検討されるよう、再度求めるものです。


 


教育に関連して、教育委員会のあり方について若干述べます。


大津市のいじめに関する一連の事件で、教育委員会の対応のずさんさが次々に報道され、これがひとつのきっかけとなって、いま教育委員会不要論や「教育行政を首長のもとに」という議論を呼んでいます。いずれ、教育委員会制度は見直される時期が来るとは思いますが、杉並区の教育委員会においては、教育の執行機関として職責を誠実に果たし、その存在意義を発揮してくださるものと期待しています。


 


 


今回、区長のご答弁で印象に残っているのは、南伊豆健康学園の跡地利用について、国や都からの決まりだからといってあきらめるのではなく、正しいあり方を提案して行くのが最前線でやっている区の役割だと述べられたことです。同じことがエネルギー政策についても言えるのではないでしょうか。多くのパブコメに押され、政府は2030年代に原発ゼロを打ち出しましたが、それは閣議決定されず、大間原発建設再開を認めたことで国民からの信頼は地に落ちた状況です。杉並区は国に合わせて後退するのではなく、地域エネルギービジョンの策定にあたっては、ぜひ地域から省エネ、創エネに取り組み、原発や化石燃料に依存しないことを明確に示して下さるよう要望します。


 


さて、冒頭でデモについて申し上げました。地方に交付金をつけて危険な原発を押し付けてきたことに目が向けられ、都会の消費者が原発を自分の問題としてとらえるため、今年、原発稼働の是非を問う「都民投票条例」の制定を求めて、都知事に直接請求が行われたことは特筆すべきことです。昨年から今年にかけて必要署名数22万筆を大きく上回る32万人の署名が集まったことに、市民の政治参加意識の高まりが表れています。


 


 


尖閣諸島の領有権問題など東アジア情勢はこれまでになく緊迫した情勢ですが、それを助長する報道ばかりが多いことに危機感を持っています。私は以前の勤務先の関係で、中国、韓国をはじめ多くのアジアからの留学生と付き合ってきましたが、その交流は国同士がどんな状態にあっても変わるものではありません。市民の草の根交流から国際理解と平和に取り組むことがもっとも有効だとかんがえます。こんなときこそ、友好都市協定を結んでいる韓国ソチョ区との交流を大切にし、区が率先して国際平和への態度を示していただきたいと思います。


 


最後になりましたが、決算審査にあたり資料の調整に尽力くださった職員の皆さまには、この場をお借りしてお礼を申し上げます。今回使わなかったものについても、今後の政策提言に生かしてまいります。以上をもって、意見といたします。