第3回定例会 決算特別委員会意見 2011.10.6

                                                         生活者ネット・みどりの未来 小松久子

意見開陳に先立ち、930日、関まさお議員の、思いもかけない突然の、そして早すぎたご逝去に接しまして、生活者ネット・みどりの未来を代表して心からお悔やみを申し上げ、謹んで故人のご冥福をお祈りいたします。

 

それでは、決算特別委員会に付託された2010年度杉並区一般会計歳入歳出決算および各特別会計歳入歳出決算について意見を申し述べます。

 

当該年度は、山田宏・前区長が任期を11カ月残して区政を途中で投げ出し、参議院選挙と同日で区長選挙が行われた結果、田中良区長が誕生するという、大きな転換の年でした。しかも、年度末のことし第1回定例会最終日だった311日におきた、未曾有の大震災と原発事故により、これまでの区政について、また私たちのくらしの全般について、あらゆる面から見直しを迫られるという、思わぬ展開となりました。

 

この間の我が国の経済状況を見てみますと、今年春先までは、円高やデフレ傾向が企業収益を圧迫するとともに、雇用状況も悪化傾向にあったものの、政府の景気対策や中国を中心とするアジア圏経済の回復などにより、生産や輸出には好転が見られました。しかし、春先以降は、ギリシャの財政赤字に端を発した世界的な通貨危機、米国経済の低迷、長引く円高、大幅な株価の低迷に加え、東日本大震災の被災などの影響から、いま現在、先行きの景気減速が懸念されるところです。

 

それは、杉並区においても、当該年度の特別区民税と国民健康保険などの収入未済が、一般会計と特別会計を合わせて110億円を超える、という状況からも見てとれます。生活保護などの扶助費の増大にも、それは表れています。

 

「経常収支比率が80%を超えたというマイナス要因はあるが健全な財政である」と言いきってしまうより、区の財政状況は、特別区民税の大幅な減収を基金の取り崩しや起債によりなんとかしのいだ、と見るほうが適切でしょう。

 

限られた時間ではありましたが委員会での質疑をとおし、また、いただいた資料をもとに施策の執行状況について調査を行った結果、私たち会派での賛否の判断は分かれました。一般会計ならびにすべての会計決算案に対し小松久子、市橋綾子、そね文子は認定すべきものと判断しましたが、奥山たえこ、すぐろ奈緒は、前山田区政のもとでの当該年度予算に反対とした経緯もあり、老人保健医療会計をのぞく各会計決算について不認定といたします。

 

以下、決算審査の締めくくりに当たり、時間の制約により述べられなかったことや、再確認をお願いしたいことなど、何点か絞って述べさせていただきます。

 

まず、減税基金条例についてです。他の委員の質疑の中で、減税基金条例を廃止する議案を来年第1回定例会で提案、という方針が、副区長より唐突に示されました。田中区長が、前区長の最後の置き土産ともいうべき「減税自治体構想」について、就任早々より退けようとされていることは感じとれましたし、もともと、願望にもとづく実現の疑わしいストーリーでした。条例の廃案自体はきわめて納得できる話です。ただ、この廃止に向けての手続きについては、条例違反の疑いがあることを指摘しておかなければなりません。

 

減税基金条例第2条には「区長は、基本方針を策定し、またはこれを変更しようとするときは、あらかじめ杉並区減税基金委員会に報告しなければならない」と定められています。委員会はこれまでに3回開かれ、今年は111日と74日に開かれていますが、条例の廃止ともなれば基本方針の重大な変更ですから、「あらかじめ減税基金委員会に報告」がされなければならないはずです。ところが会議録を見る限り、そのような報告がされた形跡はありません。

 

また減税基金条例には、昨年3月、区議会第1回定例会本会議において可決成立した際、議員提案による付帯決議が加えられた経緯があり、そこには「基本方針の策定、変更にあたっては、あらかじめ区民および区議会の意見を聞くこと」という記載もされています。しかし、区民および区議会の意見が聞かれたこともありませんでした。

 

「意見を聞くこと」と「報告」のいずれもなしに基本方針の変更とスケジュールが示されたことを、どう考えればよいのでしょうか。区には早急に説明を求めるものです。また減税基金委員会に対して、条例廃止の方針について報告する義務があります。

 

さて、当該年度は行財政改革「スマートすぎなみ計画」終了の年でした。ここで掲げられた、「協働化率6割」という「6割ありき」の目標設定に違和感を抱き続けた者として、これからは民託や指定管理と「協働」を分けていこうと考え直されたことに安どしています。ただ「協働と行革を一体化して総合計画を策定する」と言われたことについては、「協働」の価値がまたまた見えにくくなってしまうのでは、と危惧しています。そのようなことにならないように、繰り返しになりますが、NPOなどの活動の現場にいる人や区民を交えて「参画と協働」をきちんと議論する場を設けるよう、ぜひご検討ください。

 

質疑をとおして、公共調達のあり方の見直しが必要であることを指摘いたしました。たとえば、山田区政時代の工事の入札について、電子入札制度を利用しているにも関わらず、落札者のプロフィールや落札時期に鑑みると、予定価格とその落札率があまりにも不自然なケースがありました。議決事件の要件にわずか10万円弱下回ったこのケースは、議会報告もされないため、議会は気がつかないことになりかねません。いま区長は変わりましたが、今後は、例えば決算審議の資料として契約台帳を、しかも電子データにしたものを議会全体に提示するということが必要だと考えます。

 

入札では、学校等の工事案件の多くにほぼ100%の落札率が続く一方で、区民生活の最も近くにある地域区民センターの入札において数十の事業者が、落札めざしてしのぎをけずり、事業者は無理してでも落とす。落札率は80%程度。その経済的しわ寄せが、従業員にかぶせられ、現場は混乱、官製ワーキングプアを再生産する。そして区民サービスにも影響が及ぶ。このような状況を、いったい誰が喜ぶというのでしょうか。

 

ここで、当区における地域区民センター設置の目的と役割を原点に戻って確認し、どのような公共調達が望ましいのか考えてみてください。最低制限価格のあり方を見直そうと当局も努力されているのは承知していますが、ここに「生活賃金を保障する」という考え方を付加していくこと。そして、社会的価値の実現などいわゆる政策入札に切り替える、または仕様書や参加資格を改善することで、自治体の有する社会的責任CSR(コーポレイト・ソーシャル・レスポンスビリティー)の実現に努めてください。

 

随意契約のあり方にも問題があります。今のような情報化の時代に、「このウェブサイトはどこそこの事業者しか運営ができない」と堂々と理由に挙げて随契するという特別待遇はもはや通用しない、と認識しなければなりません。最初に依頼した事業者に、ずっとすがりきっている、このようなスキームを許しているありようについて、再考を求めるものです。次の予算に向けて、改善に取り組んでください。

 

報酬のあり方については、区長が変わった後も、改善が見られませんでした。行政委員の報酬だけでなく、校医、そして後で述べます園医などの専門非常勤職員の報酬についても、勤務実態に比して著しく不合理だと思える金額が散見されます。生活苦のため税金を納められない区民が増える中にあって、本当にこの支給額や方法でよいのか、市民目線に立ちかえって見直していただくことを求めます。  

 

さて、商店街振興策の問題として、空き店舗について採り上げ、地域の資源として社会貢献にも活用できるようなしくみを、と申しました。商店街振興策としてはこれまで、切り札となるような施策が見つからないまま、イベントに助成する元気出せ商店街事業やなみすけ商品券など、相当な額を投入してこられましたが、その成果が見えないなかで登場した長寿応援ポイント制度は、元気な高齢者施策というだけでない効果が期待されたのではないでしょうか。

 

長寿応援ポイント制度は開始から2年経過しましたが、決算審査では施策の実態を把握できるデータが存在していないことが分かりました。そのため、施策の必要性の有無や改善点を判断することができませんでした。対象者には、区民の税金を使って商品券を交付しているのですから、「なんとなく成果が出ている気がする」という感覚的な評価では困ります。客観的かつ詳細な運営状況を明らかにすべきであり、そのための調査・分析を行うことを求めます。

 

昨年、区内で里子として育てられていた3歳の女の子が家の中で死亡した事件が、里親の虐待による可能性のあることが今年になって判明しました。虐待がもし事実なら、なぜこの事件は防げなかったのか、という思いで質疑をいたしました。里親制度が東京都のしくみであることは承知しています。けれども子どもは地域の子であり、区が関わっていれば、里親への支援や里子に対する見守りがあれば子どもは死なずにすんだのでは、とどうしても思ってしまいます。まして、児童相談所の機能は区に移管される方向性が、すでに示されています。里親制度は難しい課題を抱えた制度ですが、子どもの最善の利益のために、この社会に必要な、そしてもっと広げていきたい制度です。国が人的配置などの支援策を打ち出したことは朗報ですが、区は、今回の事件を区の問題としてとらえ、2度とこのようなことが起きないよう、子育て家庭に対するサポート体制を見直していただきたいと思います。

 

認可保育園の園医さんについて質問しました。法で定められている年2回以上の健診に対し、区から直接、園医側に費用が支払われている保育施設と、委託運営費に算入して間接的に支払われている保育施設があります。質疑の中で、委託の保育施設が支払っている健診費用がいくらか、区が把握しておられないことが明らかになりました。小規模な保育室の場合、委託運営費に占める健診費の割合が多くなっている現状があり、現場では保育の質を下げない懸命な努力がされています。委託運営費を上げるか、委託運営費の中から健診費用として区が見込んでいる額を抜き出し、家庭福祉員の場合と同じように健診費用を区が支払う形態にすべきと考えます。検討を期待します。

 

つづいてごみ問題です。可燃ごみ減量の目標達成が難しい状況で、目標値をゆるめることにするとの答弁がありましたが、ちょっと待っていただきたい。可燃ごみを減らすには、その40%を占める生ごみを減らすことがどうしても必要で、その努力をしないで安易に目標値を下げることには疑義があります。委員会で提案してきたことを実験するなどして、生ごみの減量に本気で取り組んでいただきたい、と強く要望いたします。

 

放射能対策については、誰もが初めて直面する問題で、区は迷いながらも区民の不安を受け止め、意見を採り入れて、放射線量計測や説明会、また給食食材の計測等、取り組んでこられたことを評価しています。今後もホットスポットの除染作業などが加わってくると思われ、放射能対策は、正解がない中で長期に向き合わなければならない問題です。

 

そのようななか、区が、学校での放射能の教育について理解を示してくださったことに、力を得た思いです。区民を、放射能の問題を一緒に考えるパートナーとして、信頼関係を築きながら対策に取り組んでいただきたいと思います。

 

教育に関連して、消費者教育についても述べておきたいと思います。食育についての実績を拝見しますと、食と農業のかかわりについてはよく捉えられていると思うのですが、消費者として食のことを考える学習はされているのだろうか、と疑問に思いました。農業の学習や食育で、国産のもの、産直のものを選ぶ意味を学ぶのはフードマイレージの学習ですが、それが消費行動につながらなければ環境配慮にはなりません。

 

「協働」についての質疑で「いい民間を育てるのは行政の役割」と申し上げましたが、じつは行政の役割以上に「消費者の役割」だと考えます。その意味で「いい消費者」、つまり「考えて、行動する消費者」を育てることは、ぜひ教育で取り組んでほしい大事なテーマだと思います。お金の使い方、管理のしかた、一人ひとりがお金を使うことが社会とどのようにつながっているか、またお金の使い方で社会をどう動かしていけるか、などの教育に意識的に取り組んでくださることを期待しています。

 

エコスクールについてです。当区では、小中学校の改築、改修にあたり、環境負荷、エネルギー消費の低減を目的としたエコスクール化を進めてきましたが、対象となる小中学校5校全校において、改築の後、電気使用量がかえって大幅に増加していることが明らかになりました。エアコンの使用だけでは説明のつかない、大量のエネルギー消費となっています。到底「エコスクール」とは言えない状況です。今後の小中学校の改築にあたっては、エコスクール化の目的、目標を再確認し、設計の段階から抜本的に見直しを図るべきと考えます。既存の5校については、施設の運営や維持管理の中で、いかにエネルギー消費を抑えるか、その取り組みについて至急検討されることを求めます。

 

私たちは、政策決定・意思決定の場に女性が参加することが必要だと考えています。防災対策についても例外ではありません。決算審議では触れませんでしたが、資料請求で「震災救援所運営連絡会会長の性別と委員数とその性別」を伺ったところ、運営連絡会委員の男女比は1:1と同数でしたが、45か所の震災救援所のうち女性の会長はたったの1か所でした。震災救援所の責任者は高齢の方が担っている場合が多く、万一の時は不安という声が上がっています。運営連絡会の会長を2名、男女一人ずつとすべきと考えます。また、3月の震災を受け、各震災救援所の運営マニュアルを早急に見直すよう、働きかけを願うものです。

 

住民自治について一言申し上げます。「放射第5号線の岩崎橋付近の道路構造を平面とする」旨の説明会がありました。これは、都が設置した「放射第5号線事業推進のための検討協議会」が2年4カ月かけて作成した「一部トンネル案」とする提言を、同じ東京都が切り捨てたものです。これまで検討協議会の中で違う意見を1つ1つ積み上げて合意を見つけながらつくり上げた成果が、ものの見事にこわされた形です。杉並区の住民自治が踏みにじられた重大な問題だと言わざるを得ません。質疑の中で、区としても東京都に対し、何度も一部トンネル案を尊重するよう機会を捉えて求めて来られたことがわかりました。だからそこ、都が示す納得いかない理由での平面整備を杉並区は断固として東京都に抗議すべきです。

 

決算審議をとおして、「住民のご意見をお聞きしながら」というフレーズが区側の答弁で、幾度となく繰り返されました。しかしお聞きしてそれをどう生かすのか、の道筋が見えません。基本構想策定にむけて行われた区民意見交換会でも同じことが言えます。市民討議会方式の討論会自体は評価できる試みですが、参加者の意見をまとめた報告書の冊子は、基本構想策定過程でどう扱われているのか。どう生かしていくかの道筋がありません。

 

これまで区はまちづくりに区民が参加する方法を少しずつではありますが取り入れ、「どうせ意見を言ったって区が好きにやるのだから」という初期の時代から、「ともにまちをつくっていこう」という参加型市民が増えてきた矢先にこれでは、行政との信頼関係はゼロ、参加意欲を失墜させるものです。

 

住民自治は、市民がつくる提案を区の計画や条例に生かす道筋が必要です。そのためにはさまざまな場面での合意形成のしくみを整備していかねばなりません。地域のことは地域が決める、大事なことは市民が決める、そういうまちづくりのしくみをつくっていくことが、住民自治を進める基盤になります。

 

エネルギーの問題も、自治の問題としてとらえることが必要です。原発は安全でもなければコストが安くもない、ひとたび事故がおきれば温暖化防止どころか膨大な量の処分不能な核のごみを生み出し続ける、巨大モンスターです。原発に依存する社会に未来はありません。国の脱原発政策の一進一退に惑わされることなく、杉並区は脱石油・脱原発に向けてしっかりと目標を定め、地域エネルギー政策を推し進めていくべきです。

 

最後になりましたが、決算審査にあたり資料の調整に尽力くださった職員のみなさまには、この場をお借りしてお礼申し上げます。今後の政策提言に生かしてまいります。

 

以上をもって、生活者ネット・みどりの未来の意見といたします。