第4回定例会一般質問 2010.11.22 小松久子
成年後見制度について
私は区議会・生活者ネットワークの一員として、成年後見制度について質問いたします。
今年の第2回定例会で、私は在宅で高齢者や障がい者の家族の介護を担う、介護者をめぐる問題について採り上げましたが、今回は高齢者や障がい者の権利を擁護するしくみとしての成年後見制度について質問いたします。
成年後見制度は、認知症や知的障がい、精神疾患など、何らかの精神上の障がいによって判断能力が十分でない人の生活を、おもに財産保護の面から支援する制度です。この制度を利用することにより、悪徳商法などの被害から本人を守るため不当な契約を取り消したり、介護が必要なときに本人に代わって介護事業者との契約を結んだり、というように、家庭裁判所が「成年後見人」として選任した後見人等が、本人の意思を尊重しつつ生活に必要な支援を行うことができます。
介護保険制度と同時の2000年にこの制度はスタートしました。それまでの禁治産制度は、「禁治産者、準禁治産者」という差別的な用語からもわかるように、判断力の衰えた人の尊厳や人権についての配慮を欠いたまま明治以来100年以上にわたって続いていたものですが、これを廃止し、新たな権利擁護システムとして法整備されたものです。
その施行からちょうど10年たち節目にあたる今年、先の10月には横浜で「成年後見法世界会議」が初めて開かれ、今後の成年後見のあり方をめぐって3日間、世界16の国と地域から集まった参加者500人が議論を交わしました。日本では、人口当たりの成年後見制度利用者が、ドイツなどに比べて10分の1に過ぎないことが指摘され、また親族による後見が全体の6割から7割を占める日本と、公的なシステムとして地域に根を下ろした欧米の後見先進国との違いも明らかになり、閉幕の際、「横浜宣言」として、これから適切な利用をすすめていくことが提起されました。
高齢化の進む杉並区においても、成年後見制度が、地域でくらす区民の生活の安心に役立つしくみとして、もっと身近な存在となっていくことを願う立場から、今回質問いたします。
成年後見制度には、あらかじめ本人が任意後見人を選んでおいて判断能力が不十分になったときに支援を受ける「任意後見」と、本人自身や家族・親族や区市町村長が家庭裁判所に申し立てを行い裁判所の審判によって選任される「法定後見」の二つの制度があり、さらに法定後見には判断能力の程度により「補助」「保佐」「後見」の3つの類型があります。手遅れになる前の備えとして「任意後見」の利用が広がることが望ましいと思いますが、まず法定後見制度の利用を増やしていくことに主眼をおきつつ質問したいと思います。
はじめに、制度の推進体制として、当区で設置されている成年後見制度の推進機関、成年後見センターに関連してうかがいます。成年後見センターは4年前に設立され、現在は「あんさんぶる荻窪」の5階、社会福祉協議会のとなりに事務所が開設されています。この設立の目的と経緯について、1点目としておうかがいします。
2点目。成年後見センターは、区と杉並区社会福祉協議会を構成員とする一般社団法人となっています。その運営組織の形態、人員体制はどのようになっているのか。また、年間の事業経費、区と社協で負担している経費はそれぞれいくらか、併せて確認のためうかがいます。
3点目は、設立以来、この間の事業の実績とその評価について、区の見解をおうかがいします。
4点目、社会福祉協議会との関連です。社協では、少し生活に不安を持つようになった人を日常的に支援する権利擁護のシステムとして、地域福祉権利擁護事業が実施されています。福祉サービスの利用を援助したり、日常的な金銭管理や書類を預かったりなどのサービスを有料で行う事業です。この福祉サービス利用者が成年後見制度の利用に移行し「被後見人」等となる場合があるかと思いますが、社協から成年後見センターへのスムーズな連携が求められます。どのように連携がとられるのか、おうかがいします。
先ほども述べたように、日本では子ども、兄弟姉妹、配偶者など親族が裁判所の手続きを経て後見人となるケースが、全体の65%前後を占めています。ところが親族後見人による財産横領事件や経済的虐待が毎年増えており、専門家は「親族であるがゆえに本人のための財産管理という認識が薄い。意図せずに犯罪者を生み出す環境になっている」と指摘しています。後見人になれば本人の財産が自由になるとの誤解があると思われます。
ドイツでは親族後見人の研修が各地域で実施されるといいますが、親族後見人に対してもサポートは必要です。成年後見センターは親族後見人が後見事務を行う上で、相談に応じるとしていますが、そのサポートはどのように行われているのでしょうか。おたずねします。
また法人後見についても1点うかがっておきます。親族や第三者による後見の受任が困難な場合には、後見センターが法人後見を受任するとのことです。これはどのような場合でしょうか。お示しください。
さて、成年後見制度については、費用がかかること、申立人を必要とすることから、低所得者や親族がいない人には利用できないと誤解されている向きがあります。しかしこの制度は、社会的弱者の権利を擁護し困難から救済する社会福祉的な側面もある、ということができると思います。そのような観点から、以下おたずねします。
杉並区では区長申立てや後見費用の助成が実施されていますが、そのことが一般にはよく知られていません。周知が広がれば後見制度の利用が進むと考えられます。これらの制度に関連して、確認したいと思います。
身寄りのない高齢者や障がい者の成年後見が必要になったとき、親族に代わって自治体の首長が申立人となり裁判所に申し立てを行う制度が首長申立てです。費用負担がかかるのをおそれて取り組みに消極的な自治体もあると聞いています。杉並区の区長申立て実績は「なかなかがんばっている」との評価を聞くところですが、区長申立てと費用助成について、まずしくみの概要を説明願います。また、当区の実績は何件か、お示しください。
2点目。財産もなく所得の低い被後見人が、区内から区外の高齢者施設などへ入所のため転出したことで住民登録が区内になくなったとき、しかも被後見人が後見人への報酬費を負担することが困難な場合に、以前は助成が受けられませんでしたが、制度の見直しにより費用助成が適用されるようになりました。このことにより後見制度の利用の間口が広がったと評価しています。今後さらに利用が広がっていくべきと考えますがいかがでしょうか。うかがいます。
3点目。生活保護受給者の場合、「ケースワーカーが手続き等やってくれるので成年後見人は不要」として後見の利用を抑制することが他の自治体ではあると聞きます。財政負担を抑える目的だと思いますが、権利擁護システムの利用推進の意味から望ましいことではないと考えますが、当区ではいかがか、うかがいます。
さて、成年後見制度は、当事者の保護を図ることを主たる目的としながらも、その趣旨は、歳をとっても障がいがあっても、もてる能力を活用して自己決定権が尊重され、家庭や地域でくらし続けることができるような社会を形成するという、ノーマライゼーションの理念にあるといえます。それは人が助けたり、あるいは助けられたり、ということがあたりまえの地域社会であり、そのためには専門的知見や技術をもつ専門職後見人だけでなく、生活のこまごました相談にも対応しうるボランティア的な後見人、すなわち市民後見人の存在が必要となってくるはずです。
市民後見人は「社会貢献型後見人」とも呼ばれ、当区では、区民による市民後見人は「区民後見人」と呼ばれています。
11月7日、社協の主催で開かれた「すぎなみ地域福祉フォーラム」は、そのようなたすけあいの地域を考える意味で興味深い企画でした。私は区民後見人や生活支援員、あんしん協力員などを語り手とする分科会に参加しましたが、定員30人のところ50人ほども集まり、地域福祉権利擁護についての人びとの関心の高さに目を開かされる思いでした。参加者のひとり、団塊世代の区外の男性が「市民後見人の研修を修了して研さんも積んだが声がかからない。市民後見人の仕事をさせてほしい」と発言するのを聞いて、区内の研修修了者も同じように感じているのでは、という感想をもちました。
ボランティアスピリットある人材の活用が図れないでいるとすれば、もったいないことです。ただ、法律知識や専門的知見が必要とされないことが前提であるため、申し立てる側からすればいまひとつ信頼を寄せることができないのかもしれませんし、はたで想像するほど簡単なことではないというのはわかる気がします。それでも、「新しい公共」の進展とともに市民後見人のニーズがこれから広がっていくことは確実です。
そのような認識に基づいて、区民後見人に関連して3点、質問いたします。
すぎなみ地域大学で区民後見人養成講座が1期だけ開かれました。このことに関連した質問です。この目的は何だったのか、確認します。また実施後の成果をどう評価されるのか。その後開かれていないのはなぜか、続けてうかがいます。
養成講座では、高齢者施設でのボランティア体験や、障がい者の特性を把握・理解することなどが研修に組み込まれていました。研修修了者は後見センターが実施した実務研修を受け、社会福祉協議会のあんしんサポート事業の生活支援員として活動するなど、区民後見人をめざしつつ身近な地域での活動につなげておられると聞いています。
「高齢者や障がい者のために働きたい」という市民の意思が尊重され生かされるためにも、区民後見人やその研修修了者が学習を継続し知見を深めたり技術の向上を図ったりすること、また、区民後見人同士の情報交換や交流することは重要です。そのような場をセンターは設けることが必要と考えます。いかがか、2点目としてうかがいます。
3点目です。地域大学だけでなく、ここ数年の、他の機関での市民後見人養成研修終了者も多数と思われ、団塊世代の地域への還流にそって杉並でも今後さらに増えていくと思われます。区民後見人の活用と人材育成について、今後の展望といまの課題は何とお考えでしょうか。おうかがいします。
次に、障がい者に関する質問です。
高齢者に比べ知的・精神障がい者の家族にとっての後見制度はさらに遠い存在になっています。制度のしくみがなかなか認知されない、それ以前に関心が持たれないのは、制度自体が分かりにくいこと、とくに「費用がいくらかかるのか見当がつかない」ことが最大の理由と思われ、いまの課題であることは事実です。しかし、知的・精神障がい者を日常的にケアしているのは多くが親御さんであり、その高齢化が進んでいる状況にあっては、本人だけでなくケアする側も判断能力の衰退が心配されるケースが少なくありません。
成年後見センター主催により開かれている杉並区成年後見制度利用推進連絡会では、構成メンバーに障がい者福祉団体からも参加しておられますので、連絡会として障がい者やその家族に対して制度の浸透をつねに意識していただきたいと思います。
区としては、障がい者の制度利用を増やしていくことについて、いまの現状と課題をどのように認識しておられるか、おうかがいします。
なお障がい者が被後見人となる場合は、後見人は障がいごとの特性を理解しておく必要がありますから、成年後見センターにはそのための支援が求められます。障がい者福祉の専門家などとの連携が、当然ながら必要です。
一方、障がい者や家族に接する側の、福祉サービス事業所、ガイドヘルパーなどへも、高齢者やその家族に接する機会の多いケアマネージャー同様に制度の周知や啓発が必要ですがいかがでしょうか。見解をうかがいます。
ところで、内閣府「障がい者制度改革推進会議」では、先ごろ、精神保健福祉法における精神障がい者の保護者制度を抜本的に見直す方針が示されました。
保護者制度とは、医師から精神疾患の診断がされたら必ず「保護者」をつけなければならない、という制度です。保護者になる人は、優先順に、成年後見人または保佐人、配偶者、親権者、その他の家庭裁判所が選任する親族、となっていますが、実際には後見人・保佐人にしても親族が受任することがほとんどであり、圧倒的に多いのは親です。保護者は本人を一生監視し続けるよう強制されますが、その根底にあるのは「精神障がい者は見張っていなければならない」という差別と偏見意識以外の何物でもありません。
いま当事者や家族たちの、保護者制度の廃止を求める声が大きくなっています。障がい者の権利擁護の観点から「廃止」は必然的な流れです。そして、この流れと併行して第三者の成年後見人の登用が進められるべきと考えます。区のお考えはいかがか、おたずねします。
高齢社会がこれからますます進んでいくにあたり、任意後見ももっと活用されるべきですが、その前に成年後見制度に対する周知が広がらなければ話は始まりません。今年9月の休日に区と後見センター、社協や外部の他団体もふくめての主催により「成年後見制度・遺言・相続相談会」が開かれ、多くの相談者が来訪されたと聞いています。毎年開かれているとのことですが、このような活動はぜひ継続してくださるようお願いいたします。
また、区と後見センターがキャンペーンを実施するなどし、制度を広める学習会や出前講座を地域包括支援センター、ゆうゆう館や図書館、地域区民センターなどあらゆる機関や施設を利用して開催することは有効と考えます。高齢者の消費者被害が頻発していますが、未然防止や、すでに受けてしまった被害の救済のために、消費者センターとしても成年後見制度について従来にも増して積極的な啓発に取り組むべきです。そしてその際、社会福祉士会、弁護士会、司法書士会、税理士会などの外部機関と協働で実施することは社会資源を生かす意味でも重要と考えます。いかがでしょうか。うかがいます。
なお区の保健福祉計画では現在のところ、制度の具体的な推進策が見られません。成年後見制度の推進計画を実施計画に位置づけるべきであり、今後検討されるものと期待しています。
最後に、いまの成年後見制度の問題点についても言及しておきたいと思います。それは、被後見人になると自動的に選挙権を失うことです。判断能力が不十分といっても、すべての被後見人に投票する能力がないということはありません。投票は憲法で保障された権利であり、選挙における自己決定権を認めること、それはその人の尊厳を守るためにもたいせつなことだと思います。いまの制度は人権上重大な問題があるといわなければならず、できるだけ早い時期に法の下で改善すべき、とこの場をお借りして申し上げ、私の質問を終わります。