第3回定例会 一般質問     09 9.11 小松 久子

≪幼保一元化の取り組みについて、おもに区立幼稚園の改革方針に関して≫

厚生労働省がつい先日発表した調査報告によると、今年度、認可保育所の待機児童数は25,000人を超え、昨年の30%増、2001年の調査開始以来最大の対前年比増加率とのことです。増加の8割が都市部に集中しているといい、待機児問題が杉並だけで起きているのでなく今日的な社会問題であることがはっきりしました。

 

当区では、昨年度来の待機児対策をさらに拡充するべく、今議会においても補正予算が提案されているところであり、素早い対応に敬意を表するものです。ただ杉並の場合、4年後の2013年、平成25年度までは保育需要の増加が見込まれているとのことですが、その後の傾向については知らされておりません。どのように予測されているのか、この項の最初にうかがっておきます。

 

さて、幼稚園で定員割れがおきているというのも、杉並区に限らず都市部の全般に言えることで、幼稚園と保育所で全く逆の事象が起きています。このことを考える前に、杉並区において幼児を取り巻く状況について、またその問題について、区はどのようにとらえておいでなのか、うかがいたいと思います。また幼児をもつ家庭の幼児教育ニーズ、保育ニーズをどうとらえておられるか、併せてお聞きします。

 

幼稚園と保育園の違いは、幼稚園が学校教育につながる幼児教育の場であって文部科学省の管轄、保育園は「保育に欠ける子ども」を対象とする日中の生活の場であって厚生労働省の管轄とされています。しかし、考えてみればこれは大人の事情による分類でしかなく、幼稚園と保育園いずれも「子どもが育つ環境」として、「子どもにとって最もよいことは何か」が追求されてこなければならなかったはずです。子ども中心に据えてみれば、子どもの施設は親が働いているか否かに関わりなく、その子にとってかけがえのない時間を、たのしく有意義に、ほかの子どもとふれあい、交流しながら活動できる場として空間が用意されればよいのであって、幼保一元化を難しくさせてきたのは大人の都合以外の何物でもありませんでした。

 

生活者ネットワークは、「子どもがその子らしく成長する」ということをすべての子どもが例外なく持っている人権の一つととらえ、大人はそれを100%保障する義務があると考えています。この観点から子どもの育成を考えたとき、幼保一元化はごく自然な流れととらえることができます。

 

このほど区では区立幼稚園の廃止と新たな幼児育成施設「(仮称)子供園」への転換が計画されています。これが保護者に対する子育て支援であると同時に、子どもの育ちを支援するものとなるように、という視点から以下、質問いたします。

 

最初は国の施策に関連した質問です。国は、2006年に「認定こども園法」を整備し、認定こども園の設置を進めています。ところが全国的に導入がさほど進んでいません。この原因は何だとお考えか、うかがいます。

 

つづいて区では、幼保一元化について、これまでどのように議論がされてきたのか、また今回の「子供園」新設方針が出された経緯について、おうかがいします。

 

当区においては、私立幼稚園を母体として認定こども園が2園開設されています。この2園の取り組みに対する区の評価についても、おたずねします。

 

()子供園」は、文科省の制度における幼稚園型「認定こども園」に近いものと考えられます。文科省の「認定こども園」には幼保連携型、保育所型、地方裁量型もあるといったように、ほかの形態もありえたわけですが、当区ではなぜ幼稚園型に近いものとしたのか、うかがいます。

 

現状の幼稚園では各園あたり定員128ですが子供園の定員は80とされ、48名も少なくなります。そのうち長時間保育の子が最大40名ということですから、保育園の待機児対策としては有効ですが、区立幼稚園入園を希望しているのに入れられない家庭が数多く生じることになります。来年度の発足を予定する下高井戸と堀ノ内は定員充足率が50%前後と低いため、この2園に関してはその心配は無用かもしれないものの、高井戸西と西荻北のように充足率が80%を超える園については、この点について新たな課題が生まれることになるのではないでしょうか。見解をお示しください。

 

定員についてです。子供園では1学級が32人とのことです。小学校で30人程度学級をすすめているのに、幼児で1クラス32人というのは多すぎるのではないかという印象を持ちます。20人程度にすることが適当なのではないでしょうか。もし施設の物理的限界でクラスを増やすことが無理なら、担任を増やすなどの対応が必要と思いますがいかがか、うかがいます。

 

入園の決定に関連して2点質問します。1点目、入園希望が定員を超えた場合、だれが、どのような基準で選考するのか。2点目。障がい児への対応はいかがでしょうか。これまでもされてきていると認識していますが、今後も継続していかれるのか、確認のためおうかがいします。

 

なお「子供園」に限らず公立の施設には、セーフティネットとしての機能が求められます。ひとり親家庭や養育困難家庭への経済的な補助策が必要なことは、ここであらためて言うまでもありません。

 

さて、子供園が「小学校への円滑な接続」をめざしているとのことです。いまの幼稚園や保育園ではその点に課題があるということでしょうか。小学校1年生のクラスに見られる学級崩壊状態、いわゆる「小1プロブレム」がひろく見られるようになり、就学前の教育を充実させる必要性が高まっていると聞きます。この件について2点、おたずねします。

 

いまの幼児教育の何が問題ととらえておられるのか、これがひとつ。そして、当区における「小1プロブレム」の実態について、区はどのように把握しておられるのか。これが2点目です。

 

「小1プロブレム」が起きる原因の一つには、発達障がい児の存在が考えられます。特別な配慮を必要とする子どもへの対応が適切でないために学級全体に混乱が波及するケースがあるといわれます。杉並区では発達障がい児に関して、特別な配慮としてクラスに介助員や介助員ボランティアを配置することで、問題を克服するべく前向きに取り組んでおられ、子供園においても、小学校と同様に必要に応じて介助員や介助員ボランティアが配置されるものと期待しています。

 

ただ、発達障がいの存在が表面化しない場合は適切な対応ができず、問題解決を遅らせることになってしまいます。もし、ある子どもが特別な配慮を必要としているのに、周囲がそれに気づかれないばかりに人とのコミュニケーションがうまくいかなかったり、学習が遅れたりするとすれば、本人はもちろんだれにとっても不幸なことです。気づきの機会が多くもてるよう、育成プログラムに工夫が求められるところです。

 

そして子供園での成果をふまえ、他の保育施設においても発達障がい児へのよりいっそうの配慮がされるべきと思いますがいかがか、うかがいます。

 

小学校への円滑な接続については、これまでも行事の折に相互に交流するなどされてきたと思いますが、幼小の教員同士のさらに積極的な連携が必要ではないでしょうか。また小学校の側にも、段階的に机の配置を変えるなど、学習の場を整備していくような環境づくりやカリキュラムの見直しなど、子どもに寄り添った努力が必要なのではないかと思います。お考えをうかがいます。

 

子供園では地域の子育て支援事業を展開するとされています。子育て支援は親支援、多くは女性の自立支援といえ、このようなプログラムとして、子ども家庭支援センターではさまざまな取り組みがされていますが、子供園ではたとえばどのような子育て支援事業を想定していらっしゃるのでしょうか。うかがいます。

 

当面、給食サービスがないということですが、保護者は給食実施を求めていると思います。長時間保育の場合、早朝につくった弁当は保存に気を配ったとしても、食品衛生上の不安があります。お弁当ならではのよさはもちろんありますが、できたてのおいしい給食をみんなでいっしょに食べることの食育効果は大きいものがあります。今後の給食実施の見通しはいかがでしょうか。おたずねします。

 

さて保育施設では民営化・委託化が広がっていますが、この子供園はまったく新しい施策であり、区が責任をもって就学前教育に取り組むのですから、区の直営とすべきです。運営についてのお考えをうかがいます。

 

質問は以上ですが、この項の最後に若干、要望を付け加えさせていただきます。

 

まず、区立幼稚園がこれまで培ってきた幼児教育のよさは受け継いでいっていただきたいこと。

 

そして、この事業を「子ども・子育て行動計画」にしっかりと位置づけ、「親にとって便利で助かる」というだけでない、「子ども・子育て将来構想」に照らして「子ども自身の育ちを支援する」取り組みとしていただきたいこと。

 

子どもによっては、家の閉塞空間で母親と二人きりでいるより、保育園で過ごす時間のほうが楽しいかもしれませんし、また女性が働き続けたいという意思を可能にする環境整備としても、養育施設は必要です。しかし保護者といる時間のほうが幸せという多くの子どもにとっては、その豊かな育ちをすすめるという面からワーク・ライフ・バランスはぜひ進めたい施策です。待機児ゼロに向けた施策を充実させることと並行して、就労時間の短縮や地域の雇用機会を増やすなど、ワーク・ライフ・バランスの実現に向けた取り組みを追求すること。

 

つぎに人事について。区立幼稚園の園長は現在、近隣小学校の校長が兼務することになっていますが、子供園においてはどのような人事とされるのか、関心のあるところです。区ではただいま検討中とのことですが、つねに子どもの目線を外さず、子どもの権利擁護を優先させるような人がリーダーの職に就くことを期待しています。

 

そして最後は表記に関するお願いです。「子供園」という仮称として3文字の漢字があてられているが、いまは行政用語としても一般名詞としても、かな3文字の「こども」、または「子」だけ漢字を用いた表記が一般的となっていて、「供」という漢字には、大人の後についていく者、お供え物という意味があるのがその理由と聞いています。漢字表記には違和感を覚えます。「認定こども園」との混同を避けたいというのなら「子」1文字を漢字にすればよく、そのことで不都合があるとは思えません。ぜひ、かな表記に改めていただきたいと要望いたします。

 

≪中学校歴史教科書の採択について≫

この夏、4年前に引き続き扶桑社の歴史教科書が採択されたことは遺憾であり、多くの区民の期待を裏切ることになりました。会派として採択後ただちに抗議文書を提出しましたが、今回の結果について、区教委にはどのような声が届いているでしょうか。内容と数をお示しください。

 

採択前にも、区議会はじめ各方面より、「つくる会」の教科書は自由社版の歴史教科書、扶桑社版の公民教科書を含めて採択しないでほしいという要望がさまざまな形で区に寄せられたと聞いています。そのような声は他の教科に関してもあったのでしょうか。歴史と公民だけが突出して多数だったのではないかと思いますがいかがか、うかがいます。

 

そのことは、採択にあたって重く受け止められるべきであり、歴史・公民については他の教科以上に慎重な審議が求められたはずです。812日の教育委員会においてはどのような議論があったのか、委員からはどのような意見が出され、どのような議論の末あのような採択結果になったのか、具体的にお示しください。

 

4年前の「つくる会」歴史教科書採択のあと、実際にこの教科書を使ってみてどうだったのか、現場の教師や子どもたちに聞き取る調査活動を市民団体が実施しています。この事実と内容を区は把握なさっているはずです。4年前にたいへんな混乱を招いた事実を区は受け止め、今回の採択を前に区として区民や中学校の現場、保護者などに対し、歴史教科書について、また教科書採択について意見聴取に努めるべきだったと思います。開かれた区政をめざす杉並区として、今回の採択を受けて今後、そのような調査を実施すべきと思います。見解をうかがいます。

 

この結果は不思議というより異常だと多くの人が感じています。展示会での区民アンケートの扱い、教科書調査委員会、種目別調査部会での議論など、採択に至るまでのすべてのプロセスにおいて公明正大な手続きが行われたのか、疑問が残ります。いかがか、お答えください。

 

抗議文書に明記したように、歴史教科書の白紙撤回と採択やり直しを求めるものですが、いったん採択されたのちにやり直しがされた事例を残念ながら知りません。採択のやり直しをすることになるのはどのような場合なのか、お示しください。

 

なお議会における質問は当然ですが、区民から寄せられる質問や問い合わせに対して、区は真摯な対応によりていねいな説明責任を果たす義務があると考えます。

 

≪区立図書館の今後のあり方について≫

先の6月、今後の地域図書館の運営について、全12館を指定管理者による運営とする方針が中央図書館より発表され、図書館や地域の文庫活動に関わる人たちの間に大きな衝撃として受け止められました。この方針の凍結と再検討を求める区民の運動が今まさに展開されていますが、この時期をとらえて、区におたずねしたいと思います。

 

杉並区では、中央図書館と12の地域図書館が設置され、これまでに運営の外部化・民営化が進められてきました。どのようにすすめられてきたか、またこれをどのように評価なさるか、まずおたずねします。これが1点目。

 

この決定に至る経緯はどのようなものだったのか、2点目としてうかがいます。

 

3点目。利用者アンケートなどからは、業務委託や指定管理になったことで質の良いサービスが低コストで受けられる、と好評の声が聞かれるとのことですが、それは表面的なことであって、レファレンス業務の質の低下や、地域に根差した生涯学習の拠点としての機能低下が免れないと危惧する声は重く深刻です。方針の見直しを求める意見があることを区は把握しておられないはずはありません。ご存知と思いますがいかがか、うかがいます。

 

4点目は図書館協議会についてです。図書館協議会の設置について、図書館法では義務と規定されていないにもかかわらず、杉並区では中央図書館長のもとに設置されています。しかも23区で唯一、条例に基づく設置であり公募の市民枠もあるという、高く評価されるべき市民参画のしくみをもった図書館事業が展開されています。当然、杉並区はこの図書館協議会に対し、運営方針について諮られたものと思います。どのような議論がされたのか、おうかがいします。

 

指定管理者に図書館の運営が委ねられると、本の貸し出しにせよレファレンスにせよ、図書館のサービスは無料であるため営業利益を上げることが困難なので、事業者は人件費を圧縮せざるを得ません。その結果として人材確保や育成がおろそかになり、いっぽう図書館事業を手放した行政は、これまで積み上げてきたような地域情報やその収集経験を今後蓄積していくことができなくなります。国会でも昨年「公立図書館への指定管理制度の導入はなじまない」と文部科学大臣が発言し、また「指定管理者制度の導入による弊害」について配慮すべきという認識が示されています。そこで5点目の質問です。以上述べたような点について、区はどのようにお考えか、うかがいます。

 

23区で図書館運営への指定管理者導入は、ことし947館にまで増えていますが、「指定管理を導入しない」ことを決めた区も一方であります。荒川、目黒、墨田、豊島、台東、北、渋谷、江東、葛飾区においてはそのような判断が示されています。先に述べた国会での見解、他区でのこのような判断を見るとき、杉並区があと2年以内で全地域館に指定管理を、と進めることは拙速であり賢明とは思えません。指定管理で先行する成田、阿佐谷、業務委託がされている方南、南荻窪、今川、下井草などの運営状況を今しばらく見守ってからでも遅くないと考えます。区の見解はいかがでしょうか。6点目としてお聞きします。

 

以上、運営方針に関連して質問してまいりましたが、最後に、図書館のウェブサイトに関連しておたずねします。

 

現在、区立図書館では「基本方針」が策定され、ホームページで公開されているのはよいと思います。ですが、そのトップは「民との協働で個性ある図書館づくり」であり、図書館の設置目的やめざすべき理念をうたった箇所はなく、物足りないという印象をもちました。そこで質問の1点目。この方針はいつ、どこで決定されたものか、おうかがいします。

 

ここでは「民との協働」「運営状況」「経営評価」「効率化」などの語句が目につき、図書館が本来的に持っている高い志のメッセージや社会教育を担う公的施設であるという基本コンセプトが伝わってきません。正直に言って、杉並区の図書館には理想とするビジョンがないのだろうかと思ってしまいました。中央図書館の壁面には日本図書館協会で採択された「図書館の自由に関する宣言」の主文が掲げられていますが、ホームページのコンテンツにも、同様に理念を掲げることがあってもよいのではないでしょうか。これが2点目の質問です。

 

そして3点目。区が「教育基本条例等」として制定をめざしておられる憲章に公共図書館についてふれることは考えておられるのでしょうか。または今後、なんらかの理念的指針を策定されてはいかがか、おうかがいします。

 

以上おたずねしてまいりましたが、私は民営化・委託化がすべて悪いとは申しませんし、税金を有効に生かすための効率化は必要と考えます。また図書館に関してこれまで進めてきたことについては、図書館協議会に諮ってこられたことでもあり、異議を唱えるものではありません。ただ、今後のことは、最近になって熟考すべき問題点が明らかになってきたことでもあり、一度決めたからとこのまま直進することに強く疑問を感じています。

 

要は、杉並区が図書館をどうしたいのか、という問題です。効率よく本が回転し、いつでも開いていてタダでベストセラー本が借りられ、カウンターの人が笑顔で愛想がよければそれで満足、というだけの図書館を区民が求めているともしお考えになるのなら、それは大きな間違いです。教育立区の看板も降ろしたほうがよさそうです。

 

図書館は運営が変わったからといってすぐに変化が現れるものではなく、失ったものの大きさに気がついた時にはもうすでに取り返しがつかない、という事態になりかねません。ここで方針を見直されるよう、最後に要望して私の質問を終わります。