第2回定例会 一般質問     09 6/8 小松久子

私は、区議会生活者ネットワークの一員として、生活福祉のセーフティネットについて、中学校教科書の採択について、以上2点、質問いたします。

 

 生活福祉のセーフティネットについて 

経済不況による影響が社会のすみずみにおよんでいます。先ごろ発表された今年4月の失業率は5年5ヵ月ぶりに5%台を記録、有効求人倍率は過去最低となり、雇用状況の悪化が止まりません。

 

昨年秋の米国発の経済危機がその原因のひとつであることは確かですが、経済格差の問題や貧困、多重債務などの問題がそれ以前から起きていたことは、福祉や消費者行政の現場ではすでに知られていました。本議会で貧困問題がたびたび取り上げられているように、杉並区においても、ここ10年近く扶助費が増加し続けていることが問題とされてきました。扶助費については、2000年の介護保険制度導入に伴って高齢者福祉事業の多くが特別会計に組み入れられたことにより、この年は大きく減少したものの、翌年からは増え続け、2000年当時で162億円だったものが07年度には243億円という、1.5倍になっています。なかでも深刻なのは、児童福祉費と生活保護費の増加であり、両者の合計はこの間に2倍近くに膨れ上がっています。

 

厚労省の発表した今年3月の生活保護世帯は過去最多といい、01年度から一貫して最多を更新し続けているということですから、当区でも同様であろうと推測します。

 

貧困がすでに無視できない社会問題として顕在化してきました。貧困問題は雇用や労働問題のみならず、自殺者が10年間連続して3万人を超えていること、高齢者の増加、少子化の進行とも密接な関連があり、国は最優先の政治課題として取り組む必要があります。にもかかわらず、政府の公式見解では日本に「貧困」は存在しないことになっているという、驚くべき認識が問題をさらに深刻化させ、根本的解決から遠ざかっていることを申しあげなければなりません。

 

憲法25条で保障されたはずの国民の生存権をおびやかす問題として、政府の責任において対策を講じなければならないことは言うまでもありませんが、現場を抱える身近な自治体が既存の取組を活用し機能強化を図ることで救済される人が必ずいることは確かです。

 

生活保護制度は国の実施する最後のセーフティネットであり重要な施策ですが、ひとたび受給が始まると、経済的に自立してその状況から抜け出すケースが少ないことが実績から明らかです。それだけに、生活保護に至る前段階での経済的生活支援が重要です。生活保護のように「返さなくてよいお金」ではなく、一時的に融資を受けて危機をしのぎ、その後少しずつでも返していきたい、という意志をもった人に対してどう支援するのか、ということが今日の質問の趣旨です。

そこで、行政による生活福祉のセーフティネットとしての融資制度、生活福祉資金貸付制度と、昨年東京都が始めた、就労や資格取得支援の取り組みについて質問いたします。

 

国の事業として東京都社会福祉協議会が実施している生活福祉資金貸付は、既存の制度の中で、消費者が多重債務に陥ることを未然に防ぐ意味でも、多重債務者が生活を立て直そうとするときのセーフティネットとしても活用が期待される融資制度です。しかし、厚労省によれば2008年3月末の国全体で原資2065億円のうち貸付額は967億円、未貸付額が1098億円にもなり、十分に利用されているとは言い難い状況です。

 

そこでおたずねします。当区では杉並区社会福祉協議会が窓口となって運営されていると承知していますが、区内での貸付状況はいかがでしょうか。貸し付けについて相談を受けた件数と、実際に貸し付けが成立した件数に大きな差があると聞いています。それぞれの数はどのくらいか、また、相談が貸し付けにつながらなかったのはなぜか、おうかがいします。

 

生活福祉資金貸付制度は、そもそも周知が不十分です。国の制度ではありますが、生活に身近な自治体である区としても広報すべきではないのか、次におうかがいします。

 

利用が少ない理由としてあげられる点のひとつは、一部を除いて連帯保証人が必要とされることです。連帯保証を頼める人がいるくらいなら、その人からお金を借りて用が足りるはずで、それができないために貸し付けの相談にくるわけですから、見つけることが難しく、まして保証人には所得証明の提出を求められるため頼みにくいのは当然と思われます。連帯保証人がなくてもよしとするよう制度を見直すべきではないでしょうか。区の対応を求めますがいかがか、うかがいます。

 

同じようなことは、緊急小口資金貸付制度についてもいえます。社会福祉協議会の実施している緊急小口資金貸付は、貸金業規制法の改正に合わせて上限がそれまでの5万円から10万円に増額されました。消費者金融などの過剰な貸し付けを抑制する分、必要な人に低利で貸せるようにするという、多重債務者の救済をめざしての融資拡大ですが、これもやはり利用が広がっていないと聞きます。

 

緊急小口資金貸付は、消費者向けのセーフティネット貸し付けとしてもっと有効に機能させるべきなのですが、貸付の使途が限定されすぎたり、ときには要件の解釈が厳格に過ぎたりするのでは、と指摘されています。申し込みから資金交付までに時間がかかり過ぎることもよくいわれることです。東京都の場合4日以上とされ、全国的に見れば短いほうですが、1日でも早い交付が求められるケースが現実にはあります。緊急の案件に対しては現場の判断で手続きを簡略化し素早く貸付するなどの方策がとられてしかるべきではないのでしょうか。

 

これらの課題に対し、区として何らかの対策を求めるものです。いかがか、うかがいます。

 

多重債務者問題に関しては、私は2007年第3定例会において一般質問でとりあげ、区の取り組みについておたずねしました。区としての多重債務者向けセーフティネット貸付制度については、東京都が事業を始める動きがあるので見守っていくということでしたが、その後都は生活再生事業として、相談や融資事業を開始しました。

 

ここに多重債務者が相談してくる事例でいま最も多いのは、就職が決まったが給料日までの生活費や必要経費がないので「つなぎ」資金を貸してほしい、というケースだそうです。ところがそのような場合にここでの融資は受けられません。要件に合わないからです。では緊急小口資金貸付はどうかといえば、多重債務者であることがわかると、貸付金が借金の返済に充てられるという懸念により貸し付けを断られます。当然ですが、弁護士や司法書士などが債務整理を受任し分割などが始まっている場合は、貸付に応じてもよいのではないでしょうか。条件付きで、要件を緩和すべきと思います。

 

一方、小口の融資制度として当区では、福祉事務所が対応して区の実施する応急小口制度があります。無利子であり使い勝手がよいため、社協の制度よりも融資実績件数は多いようですが、こちらも当然ながら多重債務者や税金の滞納者には貸し付けられません。社協の緊急小口貸付と区の応急小口貸付は、似たような制度ですが要件が異なるため、さまざまなニーズがある福祉の現場では、選択肢の多いのは望ましいことです。それだけに、債務整理の受任を条件に、せめてどちらかでも融資を認めてほしいものと思います。ここで融資が受けられなければ、やむなく高利の金融に手を出すことになってしまいます。

 

ただしそのとき、弁護士や司法書士などとのネットワークが不可欠になります。貸すのか貸さないのか、いずれにせよ、多重債務者に対する貸し付けなどについて、区、社協などの関係団体との連携の仕組みづくりが必要と考えます。いかがか、区の見解をうかがいます。

 

ことし、国は生活福祉資金貸付け事業の大幅な見直しを予定しています。施行時期は本年10月とされ、準備が始まっていますが、この見直しにより実情に合ったしくみとなるよう、生活福祉のセーフティネットとして税が有効に活用されることを望みます。

 

つづいて、福祉事務所が窓口になって昨年から実施されている、東京都の生活安定化総合対策事業についてうかがいます。低所得者で安定的な職に就きたいという人や、就労意欲があり資格を取得したいが資金がないという人などに対する支援として、活用されることを期待するものですが、これはどのような事業か、その概要をお示しください。

 

当区での利用実績はいかがでしょうか。都全体でも最近になってようやく利用が増えてきたものの、まだまだ少ないと聞いています。対象となる人は少なくないはずですが、原因は何と考えておられるでしょうか。うかがいます。

 

これも周知がもっと必要ではないのでしょうか。区としてはどのように広報していかれるのか、おたずねします。

この事業は3年間の時限事業ですが、実績が上がっていない状況で、ある程度継続しなければ効果は得られません。国も必要と認めた施策であり、対象者にとって使いやすいしくみとなるよう検証し見直ししながら、3年以降も継続させていくべきと思います。区のお考えをうかがって、次の質問に移ります。

 

 中学校教科書の採択について

この問題も、今回多くの議員から質問通告がされていますが、昨年の小学校教科書の採択につづいて、中学校教科書の採択が行われるこの夏を控え、当然のことと思います。私も黙ってやり過ごすことはできません。

 

4年前の採択で杉並区に「新しい歴史教科書をつくる会」の教科書が導入されたことが、区の内外を問わず多くの人々にどんなに衝撃を与えたか。「人権と平和を求めた勇気ある先人の歩み」を無視し、民衆を蔑視する。支配者側の英知や能力は賞賛し、戦争の悲惨さを考えさせない方向性。このような歴史観から中学生に何を学ばせようというのか理解に苦しみます。

 

いろいろな考え方があり、それが各家庭の教育に反映されることを批判するつもりはありませんが、アジア諸国への差別意識にみちた戦争賛美の読み物が歴史の教科書として杉並の中学生にふさわしいとは、どうしても思えません。区の歴史に汚点を残し、区民の教育委員会への不信を大きくしたことは残念ながら疑いようがありません。こんなことはもう2度と起こしたくないのです。

 

最初に、手続きについて確認させていただきます。2011年には新学習指導要領実施に伴い教科書の全面的改訂が行われることになるため、今年採択される教科書は、使用期間が通常と違って2年となります。文部科学省も今年の調査は簡略化してよろしい、と通知し、「2年しか使用しない」ことを理由に、無条件に前年とおなじ教科書を採択する地区もあると聞きますが、当区の場合はどうなのでしょうか。杉並区では今年の教科書採択に関連した手続きは、基本的に4年前の前回と変わらないと聞いてはおりますが、どのように進めるのでしょうか。スケジュールについてうかがいます。

 

前回の採択では、扶桑社版の歴史教科書について、教科書調査委員会の報告、種目別調査部会の報告、各学校における調査報告、教科書展示会における区民アンケートなど、いずれも扶桑社版が最低の評価だったのにもかかわらず、最終的に教育委員会において選択されたのは扶桑社版でした。教育現場の声や区民の声はまったく生かされなかったことになり、公正さを欠いた感は否めません。今年こそ採択に現場の教師や区民の声、また子ども自身の意見も聞いて、それを生かしていただきたいものと考えます。どのようにされるのか、うかがいます。

 

4年前、採択機関について要綱の改定が行われ、審議会から調査委員会へと変えられたことが事実上の格下げにあたるのではないか、という不信を払拭することができません。もともとの「審議会」には、教育現場の専門家である教師たちの議論を重視しそれを教育委員会の最終判断に反映させるという機能があったと思います。ところが「調査委員会」は、教育委員会の下部組織として、教師などがメンバーとなる「種目別調査部会」からの調査結果を受けて教育委員会に報告する機関となっており、レベルダウンと思われます。教育委員会に権限を集中させてより強化する形になっています。

 

他の採択地区では「協議会」として幅広いメンバーでの議論の場を設けている場合が多くあります。各学校からの要望を集約できるようなしくみとし、専門委員による調査の報告や区民アンケートの結果も受けて議論するような協議会を設置すべきと考えますがいかがでしょうか。

 

そもそも、教科書調査委員会の審議が非公開で行われる理由がわかりません。この機会におたずねします。公開性と広く意見聴取がされることは、採択制度を民主的なシステムにするために欠かせないと考えます。透明・公正な審議を保障するため、調査委員会を公開で実施し、さらに教育委員会への報告までをも公開すべきと考えますがいかがか、うかがいます。

 

さて、最後に「つくる会」の分裂問題について触れておかなければなりません。一見、採択とは関係がなさそうですが、そこに重要な問題をはらんでいると考えるからです。

 

「つくる会」は2005年の教科書採択率の低さをめぐって内紛のあげく分裂し、その結果、扶桑社と自由社という2つの出版社から、非常によく似た内容の2種類の歴史教科書が出されるという事態を招き、さらに一連の騒動は、執筆内容の著作権を争う訴訟に発展しています。「つくる会」の元会長自らが、「内容が右より過ぎたために採択がとれなかった」と公然と不服を述べて「つくる会」と袂を分かち、2年後に実績を上げるため別組織を結成する、という動きから、この人たちが教科書の出版を政治的に利用しようとしてきたことは明らかです。

 

扶桑社の歴史教科書および公民教科書、そして今年参入した自由社の歴史教科書も、たとえ文科省の検定に合格したものであっても、このような経緯にてらして見れば、採択の対象から外すのが常識的な分別だと思います。教育委員各位の良識ある判断を強く求めて、私の質問を終わります。