第1回定例会一般質問 2025 2 .18奥田雅子

区議会生活者ネットワークの奥田雅子です。「認知症になっても大丈夫と言える地域づくり」について質問します。

私はこの間、折に触れて杉並区の認知症施策について質問に取り上げてきました。

昨年1月に施行された「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」の目的は「本人が希望と尊厳をもって暮らすことができる共生社会の実現」であり、法の名称にもその目的が表れています。そして、基本理念の筆頭には「基本的人権」が掲げられ、全ての認知症の人が基本的人権を享有する個人」と明記されました。すべての施策・取組は人権べースで本人視点で企画・実施・評価をしていくことが必要です。このほか、基本理念には認知症の人の理解を深めること、認知症の人にとっての社会的障壁の除去、本人の意向が十分尊重された良質な保険医療・福祉サービス、家族等の支援、研究、総合的かつ計画的に推進するための認知症施策など、7つの理念が掲げられています。これからの方向性と注力すべきこととして、認知症介護研究・研修東京センター(以下東京センタ-と言います)の永田久美子さんは本人と共に、本人視点で、人権べースのアプローチと新しい認知症観に基づく方針を行政と専門職を含むすべての住民がまずしっかりと共有し、本人発信・支援、本人の社会参加・支援、認知症バリアフリーを日々の中で多様な立場の人が協働して創り出していくことが重要だとおっしゃっています。

今回はこれまでの質問に対する答弁を振り返りながら法の理念に照らし、区の認知症施策の進捗について確認していきます。

  • 先ず、現在、杉並区が把握している認知症の人の数について、2023年6月の一般質問で伺った数はその4月時点で9,859人、65歳以上の人口の8.21%とのことでした。その後、改定された高齢者施策推進計画には2023年1月1日時点で21,865人、65歳以上人口の18.19%となっていました。かなりの乖離がありますが、これは高齢者人口の伸びに加え、より早期の段階の人を含めて算出した国の推計に基づいた結果だと認識しました。この統計の意味は、単に数の増加ではなく、認知症をめぐる考え方や区の施策の在り方を従来の「問題が生じてからの後追い対処や部分的な施策」ではなく、今後は「認知症になる前の元気な段階から住民や当事者の視点にたった統合的な施策」に大きく舵を切りかえるべき時期にきていることを明確にしていると考えます。

そのような住民・当事者目線にたった統合的な施策への転換を着実に進めている自治体が全国でも増えています。例えば、世田谷区、静岡県富士宮市、藤枝市、神奈川県大和市、和歌山県御坊市、鳥取県鳥取市、などなどです。そうした転換が、基本法で推進されている中で、杉並区として認知症施策の抜本的な改革を、どのように進めようとされているか、方針とその改革の具体策をお聞きします。

高齢者施策推進計画の取組方針4の認知症施策の推進には①認知症バリアフリーの推進②認知症の人への相談体制の整備③認知症の普及啓発と予防・共生の推進と3つの取組が掲げられておりますが、それらの柱に沿って伺います。

②認知症バリアフリーの推進では認知症に関する正しい知識と認知症の人に関する正しい理解を深め、認知症の人や家族等が地域で安心して生活できる地域づくりや本人の社会参加を推進するとあります。ここでは認知症サポーターの養成とチ-ムオレンジの育成に触れていますが、認知症サポーター養成講座を受けた方がステップアップ講座を受け、チ-ムオレンジのリーダーとして活動の担い手になるよう一連の流れを目的意識的につくって行くことが必要だと思います。先日、認知症の取組をヒアリングしてきました小平市ではステップアップ講座を受けた方を、受講して終わるのではなく、認知症支援リーダーと位置付けて、認知症関連事業への協力やオレンジカフェの開催、また、チームオレンジの中心となるなど、役割が位置づいていました。

受講から実際に地域の中で活動していけるようになることを推進したり、活動を組織化するためのしっかりとしたしくみや体制づくりが不可欠であり、またそれを継続的に推進する適切な人材、たとえば認知症地域支援推進員を区として適切な数を確保することが重要だと思います。国の基本計画でもそれらが明示されていますが、区としての考えや計画はどうなっているのかを伺います。

③チ-ムオレンジはケア24が中心にすすめていると認識していますが、その動きを区はどの程度把握しているのでしようか。以前の一般質問でもチーム同士の情報交換の場なども提案しましたが、それぞれの地域の特性を活かしながら創意工夫していることや、悩んでいることなど共有できる場があると良いと思います。チームオレンジが制度化されてからすでに5年を経過しています。全国各地で、たくさんの失敗や試行錯誤が積まれていて、立ち上げや情報交換の場づくりも含めた活動を促進するためにも、前述した認知症地域支援推進員等の人材がリ-ドしながら、何のためにチームオレンジを結成し、どういう活動を育てていくのか、そのしくみ全体を十分に検討しながら進めていく必要があるといわれています。

区でも、チームオレンジの数を増やすことのみではなく、その目的やしくみ自体をしつかりと検討することが不可欠です。これからチームを立ち上げるところにとっても、また、既に立ち上げている地域にとっても、全国各地の先行地域と交流をはかり、知見やしくみを、しっかり学ぶことも必要だと考えますが、区の見解を伺います。

④以前の確認ではチームオレンジの活動内容として交流や見守り、茶話会、ウォーキング、体操、勉強会などが挙げられていましたが、本人のことを支援の対象としか見ていない印象を受けました。チームオレンジの場に認知症本人が参加してくることも社会参加ではありますが、もう一歩踏み込んで、本人が望むことやりたいことをかなえる、例えば、やってみたい仕事をマッチングする等、チームオレンジに様々な地域資源が集うことで叶えられるのではないかと思います。 1つ事例を紹介すると、町田市から始まり今では全国に広がっている、前田隆行さんが開発した社会参加型デイサービスというものがあります。メディアにも取り上げられているのでご存じの方もいらっしゃると思いますが、BLGと呼ばれているこの取組は、地域・社会・仲間とのつながりを大切にした全く新しい認知症共創コミュニティで、介護施設の利用者が地域の企業や事業所などと連携して有償ボランティアの活動としてはたらくというものです。BLGとは障害のBarriersの(B)、生活Lifeの(L)、集う場という意味のGatheringの(G)を並べたものですが、この取組はとても参考になります。地域の中ではたらくと周りの人の理解も広がるし、ささやかであっても認知症本人にとっては社会参加していることへの自信にもつながっていくのではないかと思いますが、いかがか。

⑤杉並区ではオレンジカフェや本人交流会はどのように位置づいているのでしようか。地域ごとに呼び方はいろいろあっても良いですが、情報発信の時にどういうものかがわかるような広報が必要だと思います。小平市は本人に認知症と自覚がない人を対象にしたオレンジカフ工と自覚のある本人が参加する認知症本人交流会を実施しているのは面白いと思いました。また、千葉市などはオレンジカフェの開催場所をファミレスにしたりショッピングモールで行っていて、たまたま通りかかった人も興味を持って飛び入り参加する等、周知啓発にもなる取組みだと感じました。様々な取組について対象や内容のわかりやすい発信が求められていると思いますが、区の考えをうかがいます。

⑥次にヘルプカ-ドについて伺います。ケア24高井戸と善福寺が試験的にカードの配布および活用を行い、全ケア24職員対象にヘルプカ-ドの活用に関する説明会を行ったと聞いています。しかし、いまだに普及していないのはなぜか。自治体によっては行政が積極的にカードを作成し、配布、啓発に努めようとしていますが、以前区でも独自のカードを作るようなことをおっしゃっていたと思いますが、その計画はあるか確認します。認知症の人に限らず、誰もが自由に外出をしたいという「希望をかなえるヘルプカ-ド」を区としても積極的にその活用を進めて欲しいと思います。例えば、なみすけマ-クを入れたりすることで、区内で通用する愛されるカードになったら、全ての人にとって優しい杉並の街になるのではないでしようか。

⑦次に相談体制の整備について伺います。医療と介護の現場においても新たな認知症観を浸透させていくことが重要だと考えます。特に医療現場においては病状を見るだけでなく、その人がこれからどのように地域の中で暮らしていけばよいのかを具体的にアドバイスできるように地域資源情報なども伝えておくことが必要であり、それによって介護現場とも連携が図れるのではないかと思いますが区の見解を伺います。

⑧次に認知症の普及啓発と予防・共生の推進について伺います。2025年度予算に杉並区のケアパス「認知症あんしんガイドブック」の改定予算が付きました。2025年度末に4000部発行とありますが、その改定過程が気になるところです。認知症本人や家族、支援者などに改定作業に関わってもらうことが必要だと考えています。単に意見を聴くだけではなく、現在のケアパスの良いところ、改善した方が良いことなどを本人の視点で一緒に考えながら作成してほしいと思います。いくつかの自治体のケアパスも見ましたが、ページ数も内容も、体裁も色々でとっつきやすさも重要だと感じました。他自治体のものも参考にすると、ここいいねとかここ嫌だねということがイメージできるのではと思います。国立長寿医療研究センターでは「認知症ケアパス作成と活用の手引き」を発行していますが、区も、この手引きを参考にしているのでしようか。冒頭にオレンジランプのモデルにもなった若年性認知症当事者の丹野智文さんのメッセージが掲載されています。長いのでここでは紹介しませんが、ぜひ、区長はじめ職員のみなさん、議員の皆さん、区民の皆さんに読んでほしいメッセージです。何を大切にすべきかがわかると思います。区はこの認知症あんしんガイドブックの改定作業をどのように行っていこうとしているのか伺います。

⑨4000部のケアパスはどのような活用を考えているのか伺います。ス-パーや銀行、郵便局などに置いたら相談が増えたという自治体もあるようです。

⑩認知症共生講座の開催予算では9月の認知症普及啓発月間を中心に講座や区役所1階ロビー展示、認知症本人が参画する講演会や映画上映会などが盛り込まれていますが、認知症普及啓発月間では区内図書館や区民センター、コミュニティふらっと、ゆうゆう館などでもチラシやリ-フ、ヘルプカ-ドを配布する等、同時多発的にコーナ-をつくって発信するチャンスにしてはどうかと考えますがいかがか。

⑪昨年3月に改定された高齢者施策推進計画に沿って伺ってきましたが、その取組方針4については東京センターの助言により地域包括ケアシステムと認知症施策を一体的に推進すべきであることと、新しい認知症観をすべての人と共有し、認知症本人や家族の意見を聴きながら、総合的な施策を推進するための基盤となる基本法の規定に沿って具現化することが求められるということで、1つの取組方針にまとめられたとのことでした。これは2023年11月一般質問答弁です。しかし、推進計画取組方針4からは地域包括ケアシステムと認知症施策をどのように一体的に推進していくのかが今一つ見えてこないため、今回の質問にも至りました。もう一方の地域包括ケアシステムの推進の中で進められている生活支援体制整備事業の第2層協議体では各ケア24が中心となって地域の中にある生活課題の解決に向けて、様々な団体・住民等が集まり情報共有・意見交換を行うなど、連携した活動が展開されていることは承知していますが、この第2層協議体の活動とチームオレンジをどう絡めていくのか行かないのか。いずれもケア24 が中心となって進めている訳で、あれもこれもとならないように整理することも必要かと考えます。現在、60近い第2層協議体に認知症支援の視点も盛り込み活動を見直すところがあっても良いかもしれません。この地域包括ケアシステムと認知症施策を一体的に推進するということを区はどのように捉えているのか伺います。

⑫ここまでるる質問してきましたが、今後、この取組方針4を具体化するための「共生を共に作るアクションプラン」がやはり必要ではないかとの考えに至ります。冒頭述べたように現在は、認知症の考え方や施策のあり方を抜本的に変えるべき時期であり、基本法が施行されたことは杉並区においても認知症施策をよりよく変革するための好機・チャンスだと思います。

行政内だけで進めるのではなく、当事者を含めた様々な立場の人が参画してワ-クショップ等を通じてアクションプランをつくり、共生に向けたアクションをまちぐるみで活発に進めている自治体に藤枝市、御坊市、鳥取市、泉南市などがあります。それらの自治体を参考にしつつ、各自治体が地域特性に応じた計画作りを進めることが求められているのではないでしょうか。

杉並区の住民、専門職等の豊富な人材とともに、ワークショップ等を継続的に行いながら、住民・当事者参画型の認知症施策のアクションプランづくりを進めるべき時期に来ていると思いますが、区としてのお考えや予定を最後に伺って私の一般質問を終わります。