【特別寄稿】大統領選挙とアメリカの民主主義(2)
大統領就任後1カ月がたつが、トランプ新大統領の暴走が止まらない。歴代大統領に例をみない就任直後の大統領令の乱発は、その内容がメキシコ国境沿いの壁の建設や、特定のイスラム教国からアメリカへの入国一時禁止など、移民国家アメリカの建国の理念を否定するものである。同時にその乱発のいま一つの深刻な問題は、民主主義の政治制度を根本から揺るがしかねない、大統領の職務執行方法にある。
草の根民主主義の理念に基づくアメリカの連邦制度は、司法府(最高裁判所)、立法府(連邦議会)、行政府(大統領府)の権力の分散と互いのチェック・アンド・バランスが巧みにくみこまれた制度であり、その上で連邦政府に権力が集中しないように地方分権色の強い制度でもある。国家が危機にすばやく直面するため、議会の審議を経ず大統領に与えられた立法権(=大統領令の発布)も、大統領府を構成する各省庁の長官たちの合意を前提としている。しかしここ一カ月の大統領令はトランプの独断で出され、新大統領の「全体主義」的体質がアメリカの民主主義を危機に晒している
一方で建国の理念と民主主義の制度を覆しかねないトランプ大統領の登場は、国民の危機意識をあおり、かつてない広範な草の根の抗議活動を誘発している。皮肉にもそれはアメリカの民主主義が、草の根で健全であることを示唆するものである。大統領就任式の翌日、トランプ大統領の女性やマイノリティにたいする差別発言に抗議するアメリカ史上最大のデモが首都ワシントンで行われた。また多くの州で地方裁判所が、イスラム国からの入国を禁止した大統領令を違法とする訴訟を起こし、その施行を阻止している。
かくしてアメリカの民主主義は今「全体主義」的国家へのギアを踏むのか否か、角番に立たされている。
(東洋英和女学院大学元教授 進藤久美子)