予算特別委員会意見開陳  2012.3.21市橋 綾子

予算特別委員会の最終日にあたり、生活者ネット・みどりの未来の意見を申し述べます。 

今回の予算特別委員会では、2012年度各予算案の他に18本の議案が同時に付託されました。限られた時間内で十分に質疑ができなかったことは残念ですが、以下、時間の制約により述べられなかったことを中心に意見を申し上げます。

 

歴史的な大災害が起きてから一年が経ちました。

この間、国の政治はますます混乱し、「命を大事にする」方向へ向かっているとは言えません。地球規模の放射能汚染を引き起こし、未だ収束を見ない東京電力福島第一原発事故は、真相究明も途上であるにも関わらず、国は既存原発の再稼働を目論み、原発技術を海外に輸出しようとしています。いま、政治が向かうべきは人の命や暮らしを第一に考え、被災地の一刻も早い復興と、持続可能なエネルギー政策への転換を実現することだと考えます。

 

経済不況は世界を席捲し、日本は、「目の前に立ちはだかる災害からの復興」という巨大な壁を前に、先行き不透明のままです。

 

当区の財政状況を見ますと基金残高が年々減少してきており、来年度予算案ではその傾向がさらに顕著になっています。財政の健全化と持続可能な財政経営の確保が謳われ、余剰金の積立、繰り上げ償還による公債費の軽減など、5つのルールが示されていますが、これらのルールが厳格に遵守されるよう
議会として監視を強めていきたいと思います。

 

今予算案が従来と大きく異なるのは防災関連費の増大といえます。昨年の大震災を経験した後であってみれば当然のことで、基本構想1番目の目標、「災害に強く安全・安心に暮らせるまち」は、311後のおおぜいの区民の思いが反映されたものと受け止めています。

 

日本の貧困層が拡大するなか、杉並区においても生活保護費がついに150億円を超え、子どもをとりまく貧困問題が確実に進行しています。小学生の5人に1人、中学生の3人に1人が就学援助を受けているという実態にあって、今回減税基金を廃止し(仮称)次世代育成基金を創設するとのこと、これを子どもの貧困に目を据えた施策として、また寄付文化を促すものとして育てていくべきと思います。

 

ところで、委員会では、深刻化する保育園の待機児問題について多くの質疑が交わされ、その原因として、「景気の低迷」が言われておりました。これを否定するものではありませんが、もうひとつの側面、女性の社会参加が浸透してきた事実をしっかり
とらえるべきであることを申し上げておきます。女性が働くことなしに現代社会はもはや成り立たないのであり、景気の動向に関わりなく、「子どもを地域が育てる・社会が育てる」ためのシステムを構築する必要があります。

 

子どもに関連して申しますと、基本構想の策定過程や新しい学校づくりにおける「子どもの視点」「子どもの参加」について意見を述べました。子どもは「育成される」「保護される」だけの受動的な存在ではありません。まちづくりや災害対策においても、女性の参加と同様に「子どもの参加」を取り入れるよう要望します。

 

今回、障害者自立支援法と児童福祉法の改正に基づき、こども発達センター条例の改正が議案とされ質疑を行いました。こども発達センターの果たす役割の意義と利用希望者が待機中であることを併せ見るとき、施設拡大は大きな課題です。(仮称)施設再編整備計画の策定を考えておられるとのこと、この点を優先的に検討くださるようお願いいたします。

 

杉並区が、子どもの発達障がいに対して、「切れ目のない支援」を心がけ施策化されてきたことには、敬意を表するものです。しかし、その支援が義務教育期間を過ぎると途絶えてしまうことの問題を、再度指摘しておかなければなりません。「発達障がいの相談体制の充実」は区長の公約のひとつです。支援の一日も早い本格的な取り組みに向けて、関係者を交え
具体化のための検討に着手してくださるよう要望します。

 

発達障がいのある若者が
ひきこもり状態になって長期化しがちな問題は、現代社会が抱える苦悩のひとつです。区が答弁されたように、障がい者施策としてだけでなく児童青少年施策、社会教育、就労支援などの所管がともに知恵を出し合わなければならない問題です。それだけにその前提として、まず実態を調査し問題を把握することが必要と考え、指摘いたしました。ただ、すでに先行して着手されている社会適応支援事業は、2年前からの試行ですが確実に成果をあげており、ニーズはもはや試行としての限界を超えています。本格実施として充実した展開を求めます。

 

新設が予定されている若者就労支援センターに関しても、同様の趣旨から、ひきこもり対策としての視点をもつことが重要であることを付け加えておきます。

 

区長の公約にはまた、「在宅介護に携わる区民に対する支援の充実」とあります。当区が、これまで取り組んでこられた家族介護支援や、昨年設置された医療相談窓口など、高齢者の在宅でのくらしをサポートしようとする在宅療養支援施策に力を入れておられることに注目しています。施設整備の需要がなくなることはありませんが、国の動きを見ても「施設から在宅へ」と大きく舵を切ったことは確かです。

 

100年前までの日本では、ほとんどの人が家で死を迎えていました。それが、現在では80%が病院死となっています。しかし、これからは「家で死ぬ」ことが当たり前の社会が再びやってきます。家で死を迎えることを、普通の出来事として肯定的にくらしに採り入れるには、家族が「家で看取る」ことの心構え、つまり「看取る」ための学びが必要です。学校に限らず、地域のゆうゆう館、ケア24、町会・自治会などが行う講座や、図書館でのキャンペーンなど、社会教育として多様な形で「看取り」を学ぶ機会が求められます。区として意識的に企画提案をしかけていただきたいと思います。

 

さて、今年は区政執行80周年にあたります。80年間で人口が4倍近くにまで増え、外国人1万人を含むおよそ54万人の老若男女がくらす住宅都市として、杉並区の価値を高めてこられた先人の努力に敬意を表しつつ、これからの区政運営を考えるとき、その中心に位置するのは強力なリーダーではなく、ふつうの区民です。

 

基本構想を実現するために「参加と協働による地域社会づくり」を推進していくとの方針が出されました。「(仮称)基本構想を実現するための区民意見懇談会」を設置されるとのことです。これまで「参加と協働」について、多くの提案を申し上げてきた私どもとしてはこれを歓迎するところです。しかし、市民参加を促進するには、参加の機会を増やすこと、十分な情報公開と参加のための支援、が必要です。

 

市民参加といえば審議会委員などに公募市民の枠を設けることが一般的ですが、市民が学識経験者や専門家、場合によっては議員もメンバーである会議のなかで発言するのが難しいことは、当区の公募委員を入れた会議を見れば一目瞭然です。

 

16年前、当時としては珍しかった「市民参加」で「緑の基本計画」を策定した鎌倉市に伺いました。鎌倉市では、公募委員が会議で発言しやすくするために、事前に資料を市民委員に配布し、正式な会議の前に1度レクチャーを行っていました。つまり、通常の会議に要する時間の倍の時間をかけていました。

 

説明して下さった担当課の方に、「手間がかかるのではないか」と伺うと、「市民の皆さんがご自分の考えを会議の場でしっかり発言できるようにサポートするのが私たち職員の仕事です」とこともなげにおっしゃっていました。市民参加には時間と労力が必要です。「(仮称)基本構想を実現するための区民意見懇談会」の運営を充実したものとし、今後改定される「まちづくり基本方針」や、新たに策定される「地域エネルギービジョン」「バリアフリー基本構想」など、これからの行政計画づくりには市民参加が当たり前、という実績を積み上げていただくことを期待します。

 

以下、いくつかの議案に関して若干述べます。

 

議案11号 減税基金条例を廃止する条例については、当然のことと賛同するものです。そもそも2年前に制定したこと自体がまちがっていたのです。質疑の中で、条例案を策定した行政側を「見通しが甘かった」「見識がなかった」等、追及する場面がありましたが、議決したのは議会であり、議会こそが反省すべきであることを申し上げておきます

 

第13号 杉並区附属機関の構成員の報酬及び費用弁償に関する条例の一部を改正する条例は、非常勤職員の報酬は、本来日額制であるべきと考えるものですが、職務の特徴に照らして考えると月額制を排除できないケースであり、かつ報酬の減額に一定の理解を示す観点から、賛成とします。

 

議案17号 文化・芸術振興審議会条例については、質疑のなかで、区が保有する美術品の保存や展示のあり方について課題が見えました。今後この審議会で検討されることを期待し、審議会設置に賛成します。

 

議案19号および38号 中小企業勤労者福祉事業に関する条例については、財団法人勤労者福祉協会が解散したのちの受け皿として一時的に区が引き受け、特別会計を新設することはやむを得ないものと考えます。しかし、本来の目的に照らしてその妥当性は理解するものの、公益性という観点から近いうちに見直しが必要であることも指摘しておきます。

 

議案24号 介護保険条例の一部を改正する条例についてです。今後の高齢者の増加にともない、要介護・要支援認定の申請者が増加するのは明らかであり、認定審査委員数の増員は必要なことと考えます。また介護保険料を14段階に分け、所得に応じた負担額としたことを評価します。

 

議案25号 子供園条例の一部を改正する条例について。区立幼稚園6園のうち先行してスタートした子供園4園の時は、準備期間が短い、説明が不十分など、たくさんの当事者のご意見が当時議会にも寄せられました。いま、幼稚園教諭と保育士さんの努力と区の頑張りで短時間保育、長時間保育の両立が一所懸命歩きだしています。先行園をモデルに、残り2園も保護者の声に耳を傾けながら進め、繰り返しになりますがかねてより求めている給食の実現について、あくまでも追求していただきたいと思います。

 

以上、10年後の杉並区の目指すべき将来像を描いた基本構想を具体化するための初年度予算であることを念頭に置き、委員会での質疑を通し、また、資料をもとに調査・検討した結果、一般会計ならびにすべての特別会計予算案、および本委員会に付託されたすべての条例案について、小松久子、そね文子、市橋綾子は賛成すべきと判断いたします。

 

むすび。

当区と災害援助協定を結ぶ被災地、南相馬市の復興、被災者の生活再編はこれからが正念場であり、長期にわたることを覚悟しなければなりません。放射能汚染による被害は多角化、広域化しており、被害者の救済・支援体制の構築は急務です。特に子どもたちを放射能汚染から守るための体制づくりは一刻の猶予も許されない政治課題です。

 

私どもは引き続き、原発依存のエネルギー政策から脱却し地球温暖化問題を解決するための活動に取り組むとともに、省エネルギーを基本に再生可能エネルギーの普及と拡大、地産地消をすすめ、行財政運営においても環境面からも持続可能な社会を目指していくことを申し上げ、意見とします。