予算特別委員会意見開陳 2011.3.10 小松久子
予算特別委員会の最終日にあたり、当委員会に付託された2011年度一般会計予算をはじめとする諸議案に対し、区議会生活者ネットワークとして意見を申し述べます。
田中区政における初の本格予算の提案を受け、委員会での質疑をとおして、また、資料をもとに会派で調査した結果、一般会計ならびにすべての特別会計予算案および条例案について、賛成すべきと判断いたします。その立場から、以下、時間の制約により述べられなかったことなど、何点か絞って申し上げます。
国の政治が混迷を極めています。機能不全に陥った国会のありさまを見るにつけ、政権交代を選択した国民の期待にこたえられない与党も与党なら、その足を引っ張るだけの野党にも見識と呼べるほどの見習うべきものなく、国民の生活がただ置き去りにされています。そして、ここに至るまで世論を育てようとせず政局不安をあおり続けたメディアの責任を、厳しく問いたい思いでいます。
世界に目を転じれば、情勢は日々動いています。中東のアラブ諸国でひろがった反政府運動は、長引く経済不況とそれによる貧困層の拡大を背景に、長期政権によって抑圧された民衆の怒りがインターネットを通じてまたたく間に伝播し増幅された民主化運動ととらえれば、歴史の必然だったといえるのかもしれません。しかし、緊迫する情勢を受けて原油、穀物などの価格上昇がすでに始まっており、日本の私たちのくらしに確実に影響を及ぼしつつあります。
また、ニュージーランドでおきた大地震が日本からの多くの留学生の命を奪ったように、地球が小さくなっている今日、世界の動きを常に視野に入れながら、生活に最も身近な自治体が果たすべきことを実行していかなければなりません。
2011年度予算でもっとも注目すべきことのひとつは、生活保護費の増大です。142億円という、ついに一般会計予算の1割を占めるまでになったことは深刻です。受給者の3割を占める70歳以上、6割に及ぶ60歳以上という、高齢者の貧困問題もさることながら、子どもの貧困がどこにでもある状況が、「質の高い住宅都市」をめざす当区において存在すること、小学生の20%、中学生の30%が就学援助の認定を受けているということは、高齢者とは別の意味で、早急に調査・分析のうえ対策が必要です。
契約制度検討委員会が組織され、中間のまとめが昨年末に出されました。区施設において、管理委託事業者の倒産により従業員の給料支払いに支障が起きた事件の教訓から、委託業務における「労働関係法令遵守の確認」制度の充実策への取組みを打ち出すなど、評価するところです。10月に最終報告がまとめられるとのことですが、以前一般質問で述べた、NPOなどの市民活動団体との「協働」における対等な関係のもとでの契約のあり方についても検討の俎上に載せていただきたい、とあらためて要望いたします。
行政委員の報酬のあり方について、見直すべきときが来ています。先ごろ住民監査請求が出された選挙管理委員の報酬については、勤務実態が全くなかった6か月間に報酬が支払われていたという事実を前にすれば、請求者のほうに理があることは明白であり、この制度をこのまま放置し続けることは区民の理解を得られません。この機会に日当制の検討にとりかかるべきです。
南伊豆健康学園の廃園に関して申しあげます。
耐震上の課題、また限られた財源を考えるとき、行政評価委員の出した廃止という結論は、10年前に決まっていたことでもあり、やむを得ないと感じるところもあります。が、その反面、後味の悪い思いがどうしてもぬぐえません。理由の第1は、学園が果たしてきた福祉的な側面に光が当てられることなく評価が行われたことです。南伊豆健康学園は、健康上の問題を抱える子どもの全寮制教育施設という位置づけですが、養育に課題のある家庭の子どもや、地域でくらすことが一時的に困難な子どもの緊急避難的な生活施設としてかけがえのない役割を果たしてきたと思います。
そのような現実をふまえたとき、これらの課題をおそらく共有していると思われる、他の自治体と協力し合うことが考えられないものでしょうか。特別区長会にはエリアによって4つのブロックが設定され、杉並区は中野、豊島、板橋、練馬の各区とともに第4ブロックに所属しています。特別区長会が実施する事業は、1番目に「共通する課題についての連絡調整および調査研究」とうたわれています。南伊豆の施設は高齢者用に変更するとすれば、健康学園の代替策は別の地で展開することになるでしょうから、ぜひ他の自治体区長との調査・研究に着手されるよう望むものです。
そもそも特別区長会は、重要な議論が行われる場であり、国民健康保険の統一料金や人事、ごみ処理など区民のくらしに密接したことが実質的に決まる場であるのに、都区制度のもとでの特別区という位置付けのあいまいさが反映されてか、不透明かつ区民が直接意見を言えないしくみです。それだけに健康学園を共同で運営する、というような事業にも取り組んで、特別区長会の存在意義を示していただきたいと思います。
関連して、教育問題について申し上げます。4月から全面実施となる新学習指導要領の内容については、「脱ゆとり、詰め込み教育復活」という指摘にうなずける部分があり、授業時数が増大する一方での総合的学習の時間の大幅削減に対し、「環境教育と環境行動あってのエコスクール」「エコスクールのもとでこそ環境教育」として展開されてきた取り組みが後退する不安を感じていました。けれども、各教科を横断的につなぐ理念として「持続可能」というキーワードをおくことで、これまで積み上げてきた実践が生かされ、さらにひろがりをもたせられると今は考えています。国連で定めた「持続可能な開発のための教育の10年」のうち7年目にあたる今年、新しい学習指導要領のもとでの新たな展開を期待します。
学校司書について、区は今の課題として各学校での受け入れ態勢や学校間格差についての認識を示されましたが、中央図書館の体制には言及されませんでした。これまでの区の取り組みを高く評価し今後に期待する立場から、中央図書館および地域図書館のサポート体制についても、ぜひ強化をお願いいたします。
さて、新まちづくり基本方針の策定について質問いたしました。
1992年の都市計画法の改正で、住民の意見を反映させるための必要な措置を講ずることが義務化され、市区町村が策定権限を持つ都市計画マスタープラン制度が創設されました。1997年のまちづくりマスタープラン策定に際し、それまで市民にとって難しく遠い存在であった都市計画を少しでもわかりやすくと区は14会場での説明会やポスターセッションを開催、また、シンポジウムも開催されました。この杉並区の取り組みは、都市計画マスタープランへの市民参加のあり方を探っていた他自治体職員や市民にとって、先行事例として紹介されることも多くありました。区にとっても住民にとっても「初めて住民が都市計画の分野に参加する」経験であり、「ともにつくる」「汗を流す」協働という言葉がふさわしいものとなりました。
しかし2002年、「21世紀ビジョン」に整合させるために行ったまちづくり基本方針の見直しは、形だけの市民参加にとどまったことが残念でなりません。このころに策定した後発自治体の都市計画マスタープランには、市民参加の手法や市民参加を重視した見直しのルールなどが規定されるなど、当区よりも進んだ市民参加の方法が盛り込まれています。
2009年に改正されたまちづくり条例では、「まちづくり基本方針を策定するに当たっては、区民等の意見を反映することができるよう必要な措置を講ずるものとする」と書かれていますが、今回の新まちづくり基本方針づくりは基本構想のなかで行うという方針が出され、今の時点で住民参加の気配が見受けられません。
1992年の都市計画法改定から20年以上が経過したいま、市民参加の新しい手法が編み出されています。広く多様な市民の参加を可能にする、無作為抽出による市民討議会の手法を、一般質問では基本構想づくりにおいて実施するよう提案しましたが、新まちづくり基本方針の策定にあたっても試される価値があると考えます。検討を求めます。
つづいて、南北バスと自転車のまちづくりについて申し上げます。一昨日の8日、交通基本法案が閣議決定され、このなかで自転車も移動手段として位置付けられました。
高齢者・障がい者を含むだれもが、いま住んでいるまちに住み続けられるために、また、社会参加が保障されるための移動の手段を考えたとき、交通手段をコミュニティバスにするのか、自転車でいいのかなど、全体として捉える必要があることを、今議会で再三申し述べてまいりました。いま、まさにまちづくり基本方針が見直されようとしているときにあって、まず地域交通計画を策定したうえで、自転車、福祉交通、交通事業総体の施策体系を示しながら住民の移動方法を考えていくべきであることをこの場でもう一度申し上げます。
自然環境調査と河川生物調査について申し上げます。5年に1度の調査をこれまで5次まで行い、25年が経過しました。専門調査員と公募のボランティア調査員、身の回り調査員など、多くの区民の参加により行われてきた調査です。データをとることとともに、調査に参加する方たちの環境に対する意識を大事にしたこの調査ですが、3年間で3000万円という予算は果たして税金の使い方として十分なのかという視点で、見直しがされると伺いました。
これまで調査を継続して行ってきた方たちの蓄積が生きる形で見直しがされるよう求めるものです。また、質疑の中で調査年度を自然環境調査と河川生物調査を合わせることを要望しましたが、2つの調査を別々に行うのではなく、一つの調査としてするのはいかがでしょうか。川の生き物調べを行っている小学校と、それを指導する市民環境団体が一緒に調査をしようという提案です。より多くの市民が調査に参加することで地域の環境を知り行動するという目的に合致した方法だと思います。ご検討ください。
昨年の第1回定例会は「減税自治体議会」といってもよいほど減税構想一色に染まった感がありました。思えば遠い昔のことのようであり、いまや風向きはまったく変わりました。ただ、ここで指摘しておきたいことは、減税自治体構想の暴走を許したことの責任が、ほかならぬ議会の側にもあったという事実です。杉並区議会は二元代表制の一翼たりえたのか、という観点からの自戒を込めた検証がなされるべきと考えます。
早いもので、私たちの任期満了のときが近づいています。統一地方選挙を間近に控え、今回は地域政党に関心がもたれるようになっていますが、元祖・地域政党を自認する生活者ネットワークとしては、首長追随型の政党と同列に語られることには戸惑いを禁じえません。私どもは、政治は生活を豊かにする道具として使いこなすため、分権を獲得し、市民の手に政治を取り戻すことにこれまでも取り組んできました。そしてこれからも、そのために力を拡げていく決意であることを申し上げ、会派の意見といたします。