予算特別委員会 意見開陳 2010.3.11 小松 久子
予算特別委員会の最終日にあたり、当委員会に付託された2010年度一般会計予算をはじめとする諸議案に対し、区議会生活者ネットワークとして意見を申し述べます。
委員会での質疑や会派での調査活動の結果、一般会計ならびにすべての特別会計予算案、および、修正案を含む減税基金条例を除くすべての条例案について、賛成すべきと判断いたします。その立場から、以下、時間の制約により述べられなかったことなど何点か絞って申し上げます。
今世紀最初の節目の年は、厳しい経済状況の中で明け、このわずか2か月余りの間にハイチ、チリ、台湾で大地震が発生するなど、自然環境も私たち地球市民に試練を与えるかのようです。昨年ようやくなされた政権交代ですが、経済格差は固定化し、次代を担う若者や子育て世代が安定した将来を描けずにいます。基本的人権があたりまえに尊重される社会の実現、あらゆる世代の生活保障の実現こそ、政治が担うべき役割であることを、あらためて胸に刻んでいます。
では、まず委員会の形式について述べます。審議の初日となった、2月28日の減税基金条例集中審議では、質疑の持ち時間として会派分の3分が会派の大小にかかわらず配分されました。昨年の決算委員会で私どもの要望したことでもあり、評価するところです。ただ、他会派から述べられた、減税自治体構想研究会の委員メンバーを質疑の場に招致いただきたいという要望は、理にかなったことでもあり、これが通らなかったことは、残念に思っています。
さて、減税基金条例についてなぜ私どもが反対なのか、考えを述べさせていただきます。
まず、繰り返しになりますが、区民は公共の利益のために義務として税金を払い、区がそれを将来のために基金で災害や必要な施設建設などに備えることは、当然やらねばならないことです。しかし、減税という形で個々人に直接還元されるものに、現役区民が負担するというのは、どう考えても納得がいきません。そもそも自治体が独自に減税できるのは、06年に地方財政法が改正されて初めて可能になったのであり、それまではできないしくみになっていました。ところが「減税自治体構想研究会報告」は冒頭でこう述べます。「日本ではこれまで、地方自治体が主体となって恒久的な減税を実現したことは一度もなく、研究すら行われたことはありませんでした。その意味で今回の研究は、行政としてはまさに全国で初めての試みでした」。ここまで自画自賛しなくても、と思います。このような過大な評価は、事実を見誤らせる表現といえます。
さらに、この提案に無理を感じるのは、積み立て始めて10年後以降、減税を始めた杉並区は学校や図書館などの建て替えの必要が生じたとき、都知事の許可がなければ費用のローンが組めない、すなわち起債することができなくなることです。区は、都知事は許可するだろうとおっしゃいますが保証はなく、もし許可されなければ係争事件に発展することになります。清掃事業をはじめ、23区がさまざまに連携し融通しあうことで成り立っている事業も多い中で、なぜ杉並区だけが、将来の個人のポケットマネーのためにルールを変えてまで積み立てをしなければならないのか。質疑を重ねても、理解できませんでした。
しかし、議会に身を置く者として、この間の処し方に反省もしています。研究会報告後わずか2年で実行に移されるとは想定せず、結果として議会は減税自治体構想が暴走するのを傍観していたことになります。もしやり直せるなら、この構想の提起された当初に時間を戻し、杉並区議会は区長のもとに呼び寄せられた学者とはまた別の専門家を招いて、オルタナティブな研究会を構成し、別の側面からの理論を組み立てることをすべきでした。それが、二元代表制としての議会のすべきことだったと、今にして思います。
首長が理想を語り夢見ることを非難するつもりは全くありませんが、実現ありきで進められてきた区行政の広報・啓発活動に対しては、区民をミスリードする危険性もあることから、十分に慎重であっていただきたかったと思います。
福山大学の客員教授である田中秀征氏のお話を伺う機会がありました。「グローバル経済が破たんした今、有効な経済対策はなにか」という話題になったとき、田中氏は景観計画のことを持ちだされました。「街並みを良くする、街路樹を植える、電柱の地中化、看板の撤去などで地域雇用を生み出すことが可能になる。景観計画にそって事業を行うことは、10年後、20年後、100年後の世代にも納得してもらえる」と述べておられます。
このような税の使い方と減税と、どちらがより福祉に貢献することか、明らかです。
またある人は、減税自治体構想は「お金の使い方をいま決めないしくみ」だといいます。現在の要求を抑制し後の世代に白紙委任する、そのような人間観に立っている、という指摘は、奥の深い論点ではないでしょうか。
今回、市民自治についての議論をとおして、「新しい公共」という概念のとらえ方について、区との微妙な違いが今ははっきりしてきたように思います。かつて国会でNPO法案の議員立法を提案なさった区長ですから市民自治をお分かりいただいているはず、とばかり思っておりました。しかしながら、「自立した市民が、みずからの発意と意思により行おうとする、自発的な自治」、すなわち市民自治についてご理解いただけていないとわかり、驚くより、こちらの認識不足に気づかされた次第です。
しかし、市民自治はすでに地域で芽吹き始めています。善福寺川水鳥の棲む水辺創出事業シンポジウムやまちづくり協議会に参加する人を見ても、まちづくりを一緒に考えていこうとする市民が増えているのを実感します。反対、賛成、さまざまな人がいるのがまちの豊かさであって、その人たちと一緒にまちづくりを進めていくのが地域主権であり、地域自治、市民自治だと考えます。
杉並区まちづくり基本方針を住民参画と長期的なビジョンのもとに見直す、とあり、「住民参画」の文言に大いに期待するところです。住民参画は行政の体力が試される手法ですが、区は、ぜひ受け止めていただきたいと思います。
新宿区では400人に及ぶ市民の参加で基本構想がつくられました。役所が本気で市民の気持ちを受け止めた結果です。市民参画での一番の強みは、まちのことはそこに住む人が一番よく知っている、という点です。市民の経験や知識を見逃す手はありません。市民の情報をどう使いこなせるかが勝負です。
横浜市が市民と協働で「地域まちづくり白書」を作っています。当区においても「まちづくり白書」を作ってはいかがでしょうか。市民だけでなく役所も一緒に育つきっかけとなるような、まちづくり基本方針の見直しに期待しています。
それでは続いて環境問題に関連して、述べます。
CO2削減にせよ、ごみ削減にせよ、環境問題にかかわる課題について、区は意欲的な目標値を設定し努力なさっているとは思いますが、目標達成に向けた推進力がいまひとつ、という感が否めません。
その例の一つが生ごみ資源化の調査・研究です。優秀な研究者が調査・研究を担当し必ず実現するという信念をもってシミュレーションし実行計画を描き、たとえ実現困難と思われることでも可能にする、という減税自治体構想の手法を、ここでぜひ応用していただきたいものです。可燃ごみに占める生ごみの多さ、ごみの排出はすべての住民にかかわるものであり、徹底するまでに相当な時間がかかることを考えれば、この課題に一刻も早く着手しなければなりません。
ごみ問題に取り組む市民グループが、この分野ですでに日常的に実践しています。その市民力を生かして、モデル実施を検討すべきと考えます。
プラスチックの焼却が既定路線となったことで、可燃ごみの中に占めるプラスチックの量が増えていくことも不安材料です。23区一部事務組合が実施した、プラスチック製品中の重金属類含有試験結果によれば、有害物質をふくむ重金属類が可塑剤として添加されており、これを焼却したときの環境への影響が懸念されるところです。プラスチックを「燃やすべき」とした方針そのものにあらためて疑義を感じざるを得ません。脱石油社会をうたう杉並区は、石油製品であるプラスチックの使用を減らすような生活を提案すべきと、あらためて申し上げます。
エネルギー問題についてです。
「低炭素」という言葉が「温暖化対策」に取って代わろうとしている現在、区がこれを脱石油と言い変えたのは妙案でした。ただ、4月発効の東京都の環境確保条例でも国の温暖化対策法でも、区が求められているのは温室効果ガスの総排出量なり削減量の報告・公表であり、このたび策定予定の「環境・省エネ対策実施プラン」に見られるような、区が取り組むとしているエネルギー管理との違いが明らかです。都や国の方針との差異がダブルスタンダードを生み、作業効率の低下につながらないよう、求めます。
なお、環境清掃審議会に、エネルギー問題に取り組む市民活動団体からも、メンバーとして加えるべきと考えます。ご検討ください。
キッズISOについてです。小学5年生が取り組むKid’s ISOの入門編は2週間だけとなっていますが、ガス、電気、水道、ごみのメーターを毎日調べるプログラムに取り組んでいることは素晴らしいと思います。さらに、この取り組みに、工夫を加えることで、子どもが省エネ生活に向けてスタートを切ることができます。もう少しやってみたいという意欲ある子ども、また保護者には、環境都市推進課と連携して、継続した省エネに取り組めるよう支援すべきと考えます。ご検討ください。
また、以前も申したことですが、学校のごみ・資源の分別を家庭での分別方法と同じにすべきです。学校で容リプラの分別回収をするとなれば、必要なのは貯め置くスペースだけであるはずです。きちんと分別を教えるのも環境教育です。容リプラを独自に分けている小学校があると聞きます。これをぜひ全体化するよう、要望します。
特別支援教育についてです。次年度より、区は学校が作成する「個別指導計画」ではなく、就学前から就業に至るまでの「個別支援計画」を作成するといいます。そしてその際、助言をする「専門支援チーム」、すなわち臨床心理士、医師、指導主事、社会福祉士(SSW)による学校巡回支援を新たに実施なさるとのことです。私ども生活者ネットワークは、これまで、障がい児に対して、医療機関・療育機関・教育機関の連携システムをつくり、個別の支援計画による生涯にわたる支援体制を確立するよう、予算提案の中で求めてきました。この「専門支援チーム」の取り組みをおおいに歓迎し、期待するところです。
区が特別支援教育について先進的に取り組んでくださっていることには、つねづね敬意を抱くものです。であればこそ、教育現場に多くのすぐれた人材が不可欠なはずです。これまで再三要望してきたことですが、区独自の教員養成施設である師範館を存続させていくのであれば、ぜひそのための人材育成施設へと転換・発展させていただきたい、とつよく願うものです。
花咲かせ隊・公園育て組の活動について、ひとこと述べたいと思います。市民が地域の花壇に自ら花を植え楽しむこの事業がスタートして、今年で10年が経ちます。今後もこの事業を広げていかれることと理解しています。ただ問題は、当初より始めた団体で継続困難になってきているところが見受けられることです。当事者の意見を聞きながら支援の方策をたてる時期に来ていると思われます。対応を求めます。
子どもの虐待についてうかがいました。相次いで報道されるケースはあまりにも悲惨ですが、虐待は特殊なことではなく、社会の病理が生む問題として政治が解決しなければならない時に来ていると思います。チームワーク体制による、区の前向きな取り組みを再度、要望いたします。
理由が何であれ、子どもに対する暴力を許すことはできません。そしてまた、子どもの教育を政争の具にする動きについては敏感でなければなりませんし、まして教育の場に民族や国籍の違いによる差別を持ち込むなど、あってはならないことです。
現政権の打ち出した、高校の授業料実質無償化制度の中に朝鮮学校を除外する規定を設けようとする動きが報道され、私たち区議会議員有志は、政府に再検討を求める行動を起こしました。わが会派を含めて8会派13名の連名で、3月9日、鳩山首相と川端文部科学大臣にあて、「同じ杉並区の朝鮮第九初級学校に通う子どもたちの友人として」要請文書を提出したことを、この場をお借りしてご報告いたします。
私事ですがその同じ日、新しい命を家族に迎えました。小さな杉並区民です。この地に住む、あるいは学ぶ、すべての子どもがひとりも例外なく、基本的人権が保障されるよう、生活者ネットワークは力を尽くしてまいりたいと思います。
以上をもって、会派の意見といたします。