【特別寄稿】 大統領選挙とアメリカの民主主義(1)

2003年1月号座談会

東京・生活者ネットの座談会で 2002.12月

≪アメリカ史の研究者であり、杉並・生活者ネット会員でもある進藤久美子さんに寄稿していただきました。  2回にわたって掲載します。≫

昨年11月のアメリカ大統領選挙で誰もが勝利すると思っていた民主党のヒラリー・クリントンが敗北した。ファースト・レディ、上院議員、国務長官のキャリアを積み、アメリカ史上大統領に最も近い所にいた「女性」候補であった。そして前世紀末のウーマン・リブ以来、女性たちのアイコン的存在でもあった。

しかし出馬宣言で「every day people(生活者)のための政治をめざす」と明言したにもかかわらず、既婚女性のヒラリー支持は、想定外の低さであった。選挙キャンペーンを通して「生活者」票を掴み切れなかったことが敗因のひとつとなった。一方で女性やマイノリティ(少数者)に対する差別発言を繰り返す共和党のドナルド・トランプは、「アメリカ・ファースト」を強く主張し、経済的弱者の支持のうねりを作りだすことに成功した。

ヒラリーはまた、この選挙で一億ドルをゆうに超える、候補者の中でもダントツ一位の厖大な選挙資金を集めた。その大半は、個人の小口献金によるものではなく、経済界からの巨額献金によるものだった。その経済界と癒着した選挙資金の調達方法は、ロビイストで動くワシントンの反民主的な既成政治を表象していた。そしてこのヒラリーの金権的政治姿勢は、先進諸国の中でジニ係数が40%という最大の格差社会アメリカで「生活者」(=選挙民)が、大統領選を通して批判の対象とし続けていたものに他ならなかった。

敗北宣言でヒラリーは、「ガラスの天井を打ち破ることはできなかった」と述べ、世界中の若い女性たちに「希望を持ち続けて欲しい」と激励した。しかし今回のヒラリーの敗北は、「ガラスの天井」ではなく、長いワシントンでの政治生活で身に付けた金権政治の政治的姿勢にあったと言える。    (元東洋英和女学院大学教授 進藤久美子)